資料6 ゴラン・フルティン(ILO国際労働機構・雇用部門専務理事)

 「民営化に立ち向かう協同組合の事業とサービス」
Goran Hultin:Cooperative Businesses and Services in the Face of Privatization

 (1999年8月31日――ICAケベック大会/ビジネスフォーラム
 「規制緩和と民営化に立ち向かう協同組合サービス」における文書報告)

 
 

1. 民営化、市場および企業

 社会的正義や民主主義、労働条件の改善および人材開発といった任務を実現するために、ILOは、その構成員たる政府と雇用者および労働者組織による、経済発展と雇用に貢献する政策の形成と実行を支援している。多くの政府が、構造調整や経済転換および関連する計画を通じて、経済成長と社会進歩を促進するよう努めている。民営化と市場創造はこの文脈の中で重要である。ILOは、これらの過程の社会的側面にとくに関心を持ち、政府と企業がそうした過程を戦略的に管理し、経済と効率性および社会進歩を将来的に促進するよう、支援に努めている。ILOは、国際的な経験を活用し、国、部門および企業のレベルにおける管理を再構築することによって、政策決定者がそうすることを助けている。
 
 ILOの仕事全体の中でも、協同組合は、当組織と177加盟国にとって、特別の意義を持っている。発展途上世界のILO加盟国にとって、協同組合は、弱い立場にある低所得の男女が相互自助を通じて、市場および自己雇用の世界に参入していく手段である。工業化された世界のILO加盟国にとって、協同組合は、熟練工や教育を受けた人びとが、自らが管理する制度機構を通じて、伝統的および新たなサービスを供給する、代替的な手段である。このようにして協同組合は、市場における競争に貢献しているのである。
 
 ILOはまた、政策決定者と政府官僚の民営化に対するより直接的な関与を支援することに関心を持っている。それは彼らがとくに次のことに影響を与えるからである。
 
* 短期および長期の雇用水準
* 民営化された組織に雇用されている人びと、および国家企業に留まっている人びとの労働条件
* 社会における経済的に傷つきやすいグループに対するサービスをはじめ、民営化された企業によって供給されるサービスのアクセス、利用可能性および質
* 広範な民営化を経験している諸国における生産性の水準
* 経済が転換される際の、また、より多くの活動が民間企業によって行われる際の、全国的な産業関係(労使関係)の維持と改善
* 民営化の影響を受ける産業と部門における、良好な産業関係と職場慣行の維持と適用
* 民営化の積極的影響を経済開発への広範な参加の発展に反映させる方法や、所有への参加の拡大、小企業およびより大きい民間部門での、事業環境の改善に関わる意思決定への参加の拡大
 
 民営化の概念は、発展途上諸国にのみ適用されるものではない。民間部門は、西欧工業諸国において数百年間(ママ)公共サービスを供給し、インフラストラクチャーの建設を助けてきた。しかしながら、1970年代後半の世界的な景気後退、1980年代初頭に多くのアフリカとラテンアメリカ諸国が直面した債務危機、および、1990年代初頭のアジア、東欧とラテンアメリカにおける市場経済への移行――これらのすべてが、経済成長と開発における民間部門の決定的な役割に、再び注意を向けさせることになった。
 
 工業化された世界では、現在の民営化のうねりは、1970年代のカナダと合衆国における規制緩和の時代、および1980年代初頭のフランス、ドイツ、英国における公共輸送と公共事業の譲渡と共に始まった。世界銀行や国際通貨基金といった国際的な金融諸制度の、マクロ経済的調整や経済安定、市場ベースの諸力への再編は、次のような動向を強めた。すなわち、国家所有企業をまだ大規模には売却していなかった諸国においてさえ、民間企業がかつては公共機関によってもっぱら提供されていた財やサービスの供給に参加することを、政府が促進していくことである。世界銀行は、1980年代だけで70カ国以上がいくつかの民営化形態による実験を行い、知られているだけで約7,000の国家所有企業の民営化が起きた、と報告している。
 
 主要な民営化の形態には、次のものが含まれる。
 
* 資本の民営化ないしは所有権の移転
* 経営(management)の民営化ないしは営業権(operating rights)の移転
* 営業・開発権(operating and development rights)の移転
* 所有権、経営権および開発権の移転
 
 マクロ経済政策は市場取引に貢献する環境の創造を求められている。各国政府は、インフレーションを抑制し、貿易を自由化し、経済を規制緩和するために、構造調整と安定化政策を採用した。だが各国政府は同時に、市場取引が可能になるように、諸制度の複雑なネットワークを確立した。ここには、金融および法律制度、学卒者が市場経済で効果的に働けるよう準備する教育システム、効率的な労働市場、所有権制度と効果的な分配制度が含まれる。自由市場はまた、外国貿易と投資の拡大、中小企業の振興、大企業のリストラクチャリング、および多国籍企業による国内企業への投資をも必要とする。たとえば、市民社会を形成する、市民グループや労働組織、事業・専門家の連合組織、協同組合、財団が強化されなければならない。経済・政治改革の成功ならびに民営化企業の拡大は、結局のところ人材開発――すなわち、販売・貿易担当者や熟練技術労働者の増加と共に、起業家(entrepreneurs)および市場指向の企業経営者の増加にかかっているのである。市場経済の進展を可能にし、あわせて、政治・経済・社会の困難な改革に伴う混乱と困難に対処するためには、こうした変革を速やかに実行しなければならない場合が多い。
 
 西欧市場経済の経験は、旧社会主義体制諸国の諸問題、および勃興し発展しつつある諸国が立ち向かう挑戦課題とあわせて、一連の政策改革と制度的能力が市場の発展と民営化にとって決定的であるという確信を、新たにした。成功した民営化は、中小企業と協同組合の発展、および事業環境の向上に関わる決定への民間部門の参加の拡大を可能にするのである。

2. 民営化と仕事(jobs)

 失業と不完全雇用(underemployment)は、現代的部門およびインフォーマル部門が労働力市場への新規参入者を吸収する能力の限界と結びついて、民間のイニシアティブや起業家精神および自己雇用を、仕事の創出の活発な代替案としている。
 
 数はより少ないが報酬はより良い仕事が生まれる傾向と、他方での低熟練労働者および社会的な補助金で生活する失業者の数の増大は、発展した諸国に長期的なジレンマを課している。それゆえ、政治的・経済的な意思決定者は、企業の再構築を通じてより広範な労働の分配や新たな仕事の創出の機会を提供する、解決策を追求しなければならない。
 
 発展途上諸国では、貧困と失業、インフレーション、輸出穀物の不利な交易条件、および対外債務の重荷が、見通しを暗くしている。構造調整計画は、ほとんどどんな犠牲を払っても経済成長の加速と、生産および輸出の拡大を追求するものであって、そこには社会政策の要素が欠落している。それゆえ、社会的な次元での調整を考慮に入れた、新たな計画が設計されなければならない場合が多くなっている。社会的共通基盤(教育、保健)への投資が、経済的・社会的条件の改善が緊急に必要な諸国で削減され、長期的な持続可能な発展の要件と両立しなくなっている。
 
 ILOの評価では、世界の30億の労働力人口のうち、25〜30%が不完全雇用で、約1億4,000万の労働者が完全に失業している。要するに世界の雇用状況は、依然厳しく、雇用への障害を克服する新たな道を見出す必要が切迫しており、世界中の国々に共通の緊急な挑戦課題が課せられているのである。
 
 失業と不完全雇用の引き続く高水準のために、限られた雇用機会の結果として、社会的排除への懸念が高まっている。現在の経済環境において排除の危険にとくにさらされているのは、失業した青年や、長期失業者、退職させられた高齢労働者、非熟練労働者、障害を抱えた労働者、および少数民族グループ、およびこれらのあらゆるカテゴリーにまたがってより高い雇用の障壁に直面している女性たちである。とくに社会的に懸念されるのは、世界的な若者の失業の厳しさである。ILOの評価によれば、15歳から24歳までの若者約6,000万人が、仕事を探しながら見つけられずにいる。
 
 急速なテクノロジーの変化のために、いま人びとは全労働生涯を通して技能の学習と再学習を迫られており、それに対応した訓練制度が求められている。ほとんどすべての経済におけるサービス部門活動への顕著な移行が続いてきた一方で、伝統的に製造業部門の必要に応えて組み立てられてきた訓練制度は、サービス部門の活動に対応するよう、訓練を調整し新しい内容を導入しなければならない。もう一つの重要な構造的移動は、仕事の機会の提供における、中小企業および協同組合の役割の増大である。
 
 多くのかつて公共的に所有されてきたサービスを大急ぎで民営化したことから、次のような事態が起こる可能性がある。すなわち、新たな所有者がより貧しいコミュニティの必要に全く応えられず、そのために自主供給が時として唯一の現実的な選択となっていくことである。地域に基礎を置く自助組織が、所得を創出し、貯蓄や利潤をそれらを生み出したコミュニティに還元する機会を提供している。

3. 民営化と協同組合企業

 多くの工業化された諸国では、市場経済における協同組合の重要性が十分認知され、協同組合は過去百年にわたって、地域、州、国および国際レベルの統合システムに組織された、強力な経済機構に成長してきた。国家は、主として次のような役割を通じて、企業と協同組合の発展に影響を与えている。すなわち、法の尊重と社会保障ネットワークの利用を保障することによって、社会的、経済的、および政治的発展に適切な条件を提供することである。
 
 長期に存在する協同組合企業の多く(農業販売・購買組合、信用組合、消費、小売および職人協同組合、自由業の専門家の協同組合および住宅協同組合)は、資本家所有企業と完全に競争できる、大規模で専門的に運営され、堅実な資金を有する企業に成長している。
 
 成功した大規模な協同組合は、数万人の組合員グループの場合でも、協同組合の強力なアイデンティティを維持する意識的な政策があり、そうした政策を実施する適切な手段がとられるなら、強固な組合員基盤と、協同組合の経営と管理への積極的な参加を維持することが可能であることを示した。
 
 旧社会主義諸国では、協同組合は政治的・経済的機構の中で、また、中央で計画された開発を実行する手段として、重要な役割を果たしていた。国連の機関を含む国際組織との公式的な協議において協同組合と呼ばれていたものの、その根底にある概念や目的、および活動方法の点において、それらは西欧の工業化された諸国の協同組合とは根本的に異なるものであった。
 
 市場決定システムに向けた経済活動の規制緩和と民営化の初期の数年間を通じて、それらの国の改革政府は、当初、あらゆる形態の協同組合に敵対的であった。協同組合は民衆と政府から、旧体制に限りなく近いものと見られていたのである。だが、企業家と役人は、市場経済における本物の協同組合の現実の役割に、ますます親近感を持つようになり、旧経済システムの非効率なエセ協同組合と、一人一人の農民や企業家、消費者の自立した協同組合サービスとの違いを認めている。
 
 旧社会主義諸国の協同組合発展が直面する心理的障壁はいまや和らぎつつあるものの、実践的諸課題は依然厳しいものがある。このことがとくに当てはまるのは、法的な枠組みで、そこでは土地所有や所有権、融資サービスを管轄する適切な法律がしばしば欠落しているのである。全国的な協同組合連合会の経験を欠いていることが、公衆の生活における不適切なイメージにもつながっている。
 
 過去数年間の政治的、経済的および法的変革の後で、実際には国家指導の企業であったいわゆる協同組合を、自発的、民主的で、自律的な自助組織に転換することの困難が明らかとなった。生まれつつある市場経済のニーズに応えるためには、モデルを再形成する必要がある。
 
 発展途上国と移行経済における環境の変化は、協同組合開発における国家と協同組合連合組織の役割の変化をもたらすこととなった。いくつかの国では、官僚的に統制された中央会を解散し、協同組合連合会を「最初からスタートさせる」ことを求めたポーランドの決定のように、国家を協同組合運動から切り離すラディカルな手段が採られた。その一方で、他の国々は、支援サービスの「よりソフトな」再組織と、国家の庇護から自律へ協同組合運動を移行させる、「計画的移行」の対案を発展させた。
 
 発展途上諸国において「構造調整計画」(Structural Adjustment Programmes, SAP)の実行が続き、規制緩和が定着すると共に、協同組合の主要な支援者であった国家は、協同組合から急速に離れつつある。国家支援の後退によって生み出された空白は、協同組合連合組織の役割をより綿密に再検討することを強く求めることとなった。主要な調整を実行する際に協同組合に必要な援助を与えるために、連合組織は自らの位置づけを変え、生まれつつある自律的な協同組合の有効性を拡大し高めるような支援を推進するようにしなければならない。
 
 民間自助組織としての協同組合が、競争力を持ち、長期的に経済的・社会的に有効な存在となるためには、三つの領域において同時に効率的とならなければならないことは明らかである。
 
* 顧客/組合員にとって――協同組合は企画したサービスを供給しなければならないという意味で
* 制度的に――すなわち、経済的に存続可能であると共に社会的に有効でなければならないという意味において
* 外部の融資者と組合員融資者に対して――協同組合が彼らの利益を満たすことができないなら、必要な資金を得ることができないがゆえに
 
 三つの領域の効率性を達成することは、異なる環境と部門のもとでは、別のことを意味している。たとえば商業的農民は、(工業化された西欧諸国の)パートタイムの農民や(発展途上国および移行諸国の)自給農民とは、彼らが協同組合から期待するサービスと経済的結果の双方において、別の顧客である。協同組合人も異なる現実に直面している。現代の商業的農民は、金融市場や現代的な商業政策と法に目を向けているのに対して、自給的な農民は、しばしば伝統的な法や、閉ざされたコミュニティの中での自らの地位に関心を持っているのである。開かれた市場や現代的な法制度の中に完全に統合された人びとは、経済活動へのアクセスのために慣習的制度に完全に依拠してきた人びとに比べて、協同組合運営の中で自らが果たす役割についての期待もまったく異なっている。
 
 今世紀を通じて、工業化された諸国の多数の協同組合は、(たとえばドイツのライファイゼン協同組合のように)革新的であることによって、成功した運動へと発展してきた。彼らは不利な経済的・政治的環境条件にもかかわらず、このことを達成したのである。経済的成功の達成は、時には公共セクターからの重要な支援によって、協同組合が効果的に競争できるようになることで実現された。その多くは、今日、高い比率の非組合員資本を受け入れ、真の組合員主導企業であることを放棄および/ないしは資本主導企業に自らを転化させつつある。同じように、数多くの新しい協同組合が設立されつつあることも見て取れる。これは主として、生活様式や公的サービス供給水準の変化に対応するものである。これらの新しい協同組合は、国家が供給できない、あるいは供給しない、いわゆる公共財を人びとが獲得しようとする中で、着目された組織形態であることが多い。
 
 国家の存在が、市民が望むように生きられる枠組みを国家が提供することによって、他方では、コミュニティ全体の権利を守ることによって、市民に奉仕(サービス)するがゆえに、認められるとすれば、自由に設立された組織が同様の自由を享受する権利を付与されることや、その発展を促進されることを期待することは、理に適ったことである。このような意味において協同組合が公的支援を期待するのは当然であるが、いかなるものであれ特権的な地位を期待することはできない。国家とその機関は、すべての市民およびすべての形態の企業を扱うのと同じように、協同組合を扱わなければならない。言い換えれば、協同組合が、他の形態の企業に許されている処遇と同様の処遇を、自らの業務に対する全国および地方政府ないしその機関から、最小限の介入によって、期待することは当然である。
 
 今や、自由で開かれた競争を維持することは、現代国家(ならびに欧州連合や北米自由貿易地域ないし世界貿易機関のような超国家機関)の機能の一部として認められている。企業間の競争の促進は、消費者利益の保護を企図したものである。このことは、財やサービスの一部の供給者が他の企業と共謀して競争を制限して、価格や利潤を人為的に吊り上げるのを阻止することによって達成される。規制当局は、価格固定協定やカルテルの発展を阻止し、いかなるものであれ特殊な市場における支配的地位を占めた企業に制限を課すよう追求する。
 協同組合はしばしば競争法制の対象となっている。協同組合人の活動そのものが、団結して行動することに合意した諸個人の協働を含んでいるからである。こうした協同は、彼らの合同の力を市場にもたらす契機なのである。第一次生産者(農民、漁民、職人その他)は、彼らの生産物の大規模購入者との間に公正な取引関係を確立するために協同する。消費者は生産者や供給者との間により良い取引関係を確立するために協同する。信用組合は、しばしば大規模金融機関の力と対抗するために組織される。

4. 民営化と協同の選択

 規制緩和と民営化は、国家の役割の変化を反映している。国家はいま、様々なレベルで自らの財とサービスの供給を縮小しているのである。だが、「一般的利益となる」一定の基本的で本質的なサービスに対するニードは、国家がそれを放棄しても、必ずしも消えるものではない。それゆえ、次のような疑問が生ずるのである。すなわち、これらのサービスを誰が進んで供給するのか、誰がそれを行うことができるのか。誰がその事業機会をつかもうとするのか。
 
 その答えは、協同組合の設立の中にある。
 
 一般的利益となるサービスが「民営化」されるときに、協同組合はコミュニティに対して何を提供することができるだろうか。協同組合という組織形態は、非営利的に支出を負担し、共同で支払いをコントロールしモニターし、コミュニティに共同責任と連帯をつくりだす共同の努力を通じて、コミュニティに資金を動員する可能性を与えるのである。
 
 民営化と規制緩和の過程が始まるや、実際の経験の調査と分析が必要となった。公共事業や保険、医療サービス、ならびにソーシャルケアと医療ケアの革新的アプローチといった領域において、長期的な協同組合の経験が発展するようになると、協同組合を、機会を捉えて、一般的な利益となるサービスの供給において重要な役割を果たすものと見ることに、大きな根拠が与えられる。
 
 分析という目的のために、消費者によって設立された協同組合と、供給者によって設立された協同組合を区別することが必要である。消費者の協同組合は、他の供給者のサービスが地理的ないし財政的に受け入れられない場合、ないしは、利用できるサービスが提供されない場合に、主として生まれている。よく知られているケースでは、合衆国やアルゼンチン、ブラジル、ボリビィアおよびチリの電力協同組合がある。アルゼンチンでは、500を超える協同組合が、国の電力の約10%を供給し、消費者の15%に達している。これらの協同組合は、水やテレコミュニケーションといった、その他の公共事業に広がっている。これらの協同組合の経済的・社会的利点は、主として、地域雇用の創出や地域経済の発展、分権化などへの貢献にある。さらに、これらの協同組合は、サービスの質や供給のあり方において消費者に直接的な発言権を与え、サービスの多様化の機会をもひらく。消費者の協同組合は、(たとえば日本やアメリカのように)保健や(フランスのように)保険においても存在する。
 
 今日、協同組合企業は、しばしば従業員買収の結果として生まれている。従業員は、一般的利益となるサービスの供給にニッチを見出しているのである。だがそれらは、ブラジルにおける医療協同組合(UNIMED)のように、より古い伝統をも有している。それらは、輸送や保険、保健・社会サービスといった領域や、とくに公共機関の地方団体への分権化に関する伝統的あるいは新たな法律を有する国(イタリアおよび合衆国)において設立可能である。地方自治体はそうした協同組合にサービスを委託したり、そこからサービスを購入している。こうした一般的利益を有するサービスの供給のための労働者協同組合は、様々な規模で存在する。10人以下の小さな事業体から、中規模、そして73,000人の組合員を有するブラジルのUNIMEDのような大規模協同組合連合会まで。
 
 このような試みは、いわゆる「複合協同組合(multi−stakeholder cooperatives)」という形で、民間の利益と公共の利益、消費者の利益と供給者の利益を結合するものとしても行われている。1991年のイタリア法は、多様な利害関係者の組合員による「社会的協同組合」を規定しており、そこには地方政府さえ含まれている。そうした組織形態を伴った経験は、まだ始まったばかりであり、実践だけがその実行可能性と普及可能性を示すことができる。
 
 一般的利益を有するサービスを供給する協同組合の成功事例は、多種多様である。1997年の世界銀行報告『変化する世界における国家』の中で、それらは自らの声を届けさせる機会を市民に与えることができ、公共ないし民間の独占が主として支配していた領域により競争をもたらすことができるものとされた。
 
 過去の経験は、協同組合が一般的利益を有するサービスの一部または全部を提供できることを示した。だがそれらは、自己の組合員の利益を促進するという機構と任務のために、全面的な国民的サービス部門をカバーする責任を与えられるものとはいえない。それらは供給市場における興味ある補完物であるが、排他的な供給権を得ることはできないし得るべきでもない。

5. 将来的なILOの活動

 周知のように、これらは、生まれつつあるグローバル経済がもたらした経済的・社会的環境の転換による、(新たな)機会を構成するものである。規制緩和と民営化は、国家と、世界の多くの部分における、協同組合を含めた企業との間の関係を一新した。雇用パターンや労働市場、労働関係における変化は、労働組合や雇用者組織をはじめとするILOの構成員だけでなく、あらゆるレベルとあらゆる経済部門の協同組合企業にも、深いインパクトを及ぼした。
 
 規制緩和と民営化は、繁栄をもたらしたが、新たな社会問題をももたらした。これらの社会問題によって、集団的な社会的責任の範囲が検討されつつある。これらの社会問題は、新たな需要と新たな活動機会であり、協同組合はこれに対して果たすべき重要な役割を有している。
 
 ILOフアン・ソマビア事務局長が『まともな仕事(Decent Work)』と題する、1999年6月の国際労働会議への報告で明瞭に述べたように、「ILOの今日の主要な目標は、女性と男性がまともで生産的な仕事を、自由と公正保障および人間の尊厳という条件のうちに獲得する機会を増進することである」。
 
 このことは、今日のILOの主要な目的であり、それはインフォーマル部門の労働者や、自己雇用・家庭内労働者ならびに協同組合の労働者組合員といった公式の労働市場にある労働者を含む、すべての労働者に関わっている。
 
 協同組合運動とICAおよびILOは、社会的公正と民営化および長期経済発展の利益の中に、協同の優れた理由と機会を見出すことができるかも知れない。協同組合を含めた民間企業は、あらゆる経済における成長と雇用の鍵である。
 
 このことは、協同組合についてのILOの定義に反映している。これは、1966年の発展途上諸国の経済・社会発展における協同組合の役割に関する127号勧告に含まれている通りで、そこでは協同組合は次のように規定されている。すなわち協同組合とは「自発的に結合した人びとの結合体であり、民主的に管理される組織の設立を通じて共通の目的を達成し、必要とされる資本に公平な貢献を果たし、組合員が積極的に参加する事業のリスクと便益の公正な分担を引き受けるものである」。協同組合員による経済的リスクの分担は、民営化の要石である。
 
 この点に関してILO理事会は、1999年5月の会議で、2001年と2002年に127号勧告の改正問題を、177の加盟国が含まれる国際労働会議の議題に加えることを決定した。この2年の間に、国際労働会議は、協同組合促進に関する新たな国際基準の採用について議論することになる。ここでは、規制緩和と民営化も含めて、現在の協同組合の社会・経済環境のインパクトが考慮される。
 
 現在、ILOの協同組合活動計画は、ILOを構成する政府、雇用者組織、労働組合および協同組合運動の、この新たな基準の内容に集中している。
 
 ICAの枠組みの中で、協同組合の基本的価値と原則を検討し刷新するべく、作業が既に行われていることを指摘しておきたい。この作業はすでにILOに影響を与えており、ILOは協同組合企業の特殊な性格と、協同組合企業がひらく可能性を承認している。この可能性は、経済の発展と、生産および社会サービスの民営化、民主的管理、社会進歩、およびまともで生産的な雇用の創造のためのものである。