ICA大会全体会(8月30日) 
 
「組合員であることに加わえられる価値:新たな千年紀への協同組合の挑戦」より
Adding Value to Membership:A Co-operative Challenge for The New Millenium

資料4  ポール・ヘイゼン(全国協同組合事業協会理事長・最高経営責任者)
       Paul Hazen(National Cooperative Business Association=NCBA)

 「組合員であることに加わえられる価値
 ――合衆国における新たな形態の協同組合事業」
 
 
 私たちが協同を21世紀に引き継ごうとするいま、合衆国は新たな協同組合発展の爆発を経験しつつあります。毎年、全国で数百万の人びとが、協同組合に参加することによって、自らの人生をより多くコントロールすることを選択しつつあります。協同組合の成長と協同組合に対する国民の新たな熱意を、合衆国中に見ることができます。協同組合開発の取り組み「Cooperation Works」を通じて、NCBAは、こうした既存の協同組合の刷新や新たな協同組合の組織をリードしています。協同組合は、合衆国において、また世界中で、組合員に新たな事業機会を提供することによって、組合員であることに価値を付け加えています。
 
 NCBAにおける私たちの目標は、協同組合企業を、合衆国の公衆に認められるような、私たちの経済の強力で明瞭、かつ統一されたセクターとすることです。今日、合衆国では多くの人びとが、経済には三つのセクターしかないと信じています。すなわち、投資家所有企業が支配する営利セクターと、地方、州、連邦の各政府を含む政府セクター、そして、赤十字や大学、宗教団体等の組織を包含する非営利セクターの三つです。NCBAでは、合衆国経済の第4のセクターを見ています。それは協同組合の原則と価値に基づくものです。協同組合セクターは、広範かつ多様な人びとの経済的・社会的福祉(well−being)に役立つ事業の上に築かれるものです。経済の強力な第4セクターという私たちの目標をやり遂げるために、合衆国の協同組合は、新たなサービスを提供し、新たな協同組合事業を開発することによって、組合員であることに価値を付け加えつつあります。
 
 新たな千年紀において、世界中の民衆に対する最大の挑戦は、富の継続的な集中である、と私は確信しています。この富の集中は、私たちの経済的自由と政治的自由の双方にとって危険です。協同組合を通じた経済的自由は、より良い事業の遂行方法であることを私たちは知っています。自助、自己決定、公正、平等、連帯、そして民主主義という私たちの価値は、私たちの事業を独特のものにし、私たちの組合員に市場における有利な地位を与えます。
 
 自分たちの生活を改善するために、合衆国において、数百万の新たな人びとが、毎年、協同組合に引きつけられています。今日合衆国には、4万7,000を超える協同組合が存在し、その組合員は1億2,000万人となっています。これは、合衆国の人口の40%を占めるものです。既存の協同組合が、新たなサービスを通じて組合員であることに価値を付け加え、合衆国中で急速に成長しつつあります。例えば、この5年間、合衆国の信用組合の組合員は6000万人から7600万人に拡大しました。この恐るべき成長は、住宅抵当貸付(home mortgages)や事業貸付、退職計画および電子銀行業務といった新たなサービスが、組合員であることに加えた新たな価値の結果です。信用組合の組合員の成長は、世論調査が確証しています。これによれば、消費者の70%は、信用組合が営利目的の銀行よりも、より公正な価格で、より良いサービスを提供すると信じているのです。
 
 合衆国には、消費者所有の電力協同組合が、50年の伝統を誇っています。そして今日、わが国には1000を超える電力協同組合が存在し、2600万人の組合員を擁しているのです。これらの組合員により大きな価値を付与するために、協同組合はいま、全国のテレビでブランド名を流して、電力サービスを消費者にアピールしています。「アメリカ電力協同組合」の広告は数百万の人びとに届けられています。
 
 みなさんが想像できるように、電力協同組合は数百万の新たな組合員を毎年引きつけています。電力協同組合は今年、新たな協同組合「Co−Opportunity」を組織して、組合員であることにさらに大きな価値を加えました。これは、組合員に暖房・調理用のプロパンガスを供給する協同組合です。
 
 既存の協同組合員がサービスの拡大によって成長する一方、合衆国における新たな協同組合の成長は、さらに劇的です。例えば、合衆国における最も革新的で新たな協同組合の一つが、ニューヨークに存在します。これは当市の住宅協同組合の組合員によって組織されたものです。ニューヨーク市の50万人の住宅協同組合員が「第一ロッチデール協同組合」を組織することによって、組合員たることの価値を拡張したのです。この新しい消費者所有協同組合は、電力、電気通信、エネルギー監査、およびインターネットへのアクセスを提供しています。操業わずか4ヵ月で、「第一ロッチデール」は、すでに数千の家族と事業所を組合員に加え、間もなく、合衆国最大の消費者所有電力協同組合になろうとしています。
 
 農業では、資本の集中が、多国籍企業にほしいままにされてきた小家族農民にとっての問題であり続けてきました。商品の低価格、資本に対する統制能力の低さ、そしてグローバルな市場競争が、今日、合衆国農民をがんじがらめにしています。しかし、合衆国には、多くの成功している生産者所有の農業協同組合があって、これらの問題のいくつかを解決することに役立っています。私はしばしば、協同組合員になることにどんな価値があるのかと聞かれます。協同組合員であることの違いと価値を示した、最近の例を出してみましょう。今年初め、合衆国の豚肉価格は、生産者レベルで100重量(約45kg)約8ドルという50年来の安値を記録しました。この低価格は国中の農民に、本当に経済的困難をつくりだしました。こうした状況に対処するために、60万組合員の生産者協同組合「Farmland Industries」は、最低価格を豚肉100重量当たり15ドルに設定し、組合員に市場価格以上を支払うことを決定しました。このたった一つの行動が、この商品価格を市場レベル以上に上げ、多くのFarmland組合員が経済活動を継続することを保証したのです。
 
 農家経済への富の集中はまた、多くの新たな協同組合をも生み出しました。合衆国における新たな世代の農業協同組合が、組合員に対する新たなサービス提供の最先端にいます。パスタへの小麦加工を行う「Dakota Pasta Growers 協同組合」や、豚肉を付加価値生産物に加工する「Cloverdale Growers Alliance 協同組合」、各種の果物と野菜を加工し合衆国中に販売する「Santa Fe Trail  Growers連合協同組合」などの協同組合です。別の新しい協同組合では、トウモロコシをエタノールに、小麦の刈り株を建築資材に加工しています。「Midwest 投資者協同組合」に加入することによって、「Tony and Barb Frank」は、栽培するトウモロコシからの収入を3倍にしました。それらの協同組合ではトウモロコシを鶏に与え、生産物を消費者に販売して、付加価値を組合員のもとに確保しています。Franksは合衆国における新しい協同組合の数を増やしつつあります。新世代の農業協同組合は、農民が直面するすべての問題に対する万能薬ではありません。しかし、彼らが成功したのは、利用高配当にもとづく伝統的な協同組合より、もっと多くの投資を求めたことにあります。しばしば新世代協同組合は、組合員に対して、必要な総資本の40%を投資することを求めます。低価格と農家の危機に対処するために、生産者は協同組合を設立しつつあります。これらの協同組合は、消費者市場向けの産物を生産することによって、組合員のために新たな価値を創造しているのです。この5年間に、250以上の新世代の農業協同組合が合衆国に組織されました。
 
 世論調査は、合衆国の消費者が、他の伝統的な企業以上に協同組合を信頼していることを確証しました。この信頼は、所有者が利用者であることの潜在的な可能性によるものです。協同組合はこの優位性に基づいて資本を形成することによって、自らの事業を発展させています。一例が子どもに対するデイケアを行っている労働者所有の協同組合「Childspace」です。家族は「Childspace協同組合」の労働者組合員を信頼しています。それは、彼らが事業体を所有し、家族の参加のもとに子どもに関わる意思決定を行っているからです。この信頼は、正直や公開性、社会的責任、および他者への配慮という、私たちの倫理的価値によって、得られたものです。私たちの価値が、私たちの事業を違った独自のものにするのです。
 
 合衆国の消費者と農業生産者は自分たちの協同組合に新たな価値を発見しつつあります。同じことが合衆国の小事業所有者にも当てはまります。それは彼らが、消費者や農業生産者と同じグローバル経済の圧力と富の集中に直面しているからです。
 
 食料品のフランチャイズや工業製品の供給、建設資材、教育サービス、家具内装などに従事する小企業所有者は、仕入れ協同組合の形成を通じて、力の確保を追求しています。一つの例を挙げますと、NCBAは建物供給商のための仕入れ協同組合として「AMAROK」を組織しました。今日、この協同組合は35州で営業する74の小企業に市場競争力を与え、その年間売上は5億ドルを超えています。本協同組合は、全国的な仕入れ契約、および電子ベースの取引を開拓してきました。もう一つの成功物語は、「アメリカカーペット協同組合」です。「カーペット・ワン」として知られるこの協同組合は、ここ10年で伸びてきた協同組合で、800の小企業を組合員とし、年間売上20億ドルを超える合衆国最大のカーペット資材小売商となっています。この協同組合では組合員の売上を増やすために、組合員教育計画を実施し、企業革新に賞を与えています。
 
 合衆国全土で今日、小企業のための仕入れ協同組合が300以上あり、年間売上は1,000億ドルを超えています。こうした協同組合の爆発的発展は、継続的な富の集中と現代のグローバル経済に対する反応として起こったものです。私たちは、こうした経済的圧力に反応することが協同組合員にとって最上の利益ではない、と信じています。経済の強力な第4セクターになっていくという私たちの目標を達成するために、そしてさらに多くの協同組合を組織するために、NCBAを含む合衆国の10の協同組合開発組織が計画を練り直して「Cooperation Works」を結成しました。「Cooperation Works」は、協同組合開発センターと開発パートナーの統一システムで、繁栄する持続可能なコミュニティの土台として協同を耕すものです。「Cooperation Works」は、全国的な協同組合開発の優先事項を確定します。この優先事項は、私たちの資源を公共・民間部門とのパートナーシップの構築に重点的に配分し、協同組合創造のためのジョイントベンチャーを確立するものです。私たちの目標は、協同の新たな波を促進する、一体的な(seamless継ぎ目のない)全国的協同組合開発システムを創造することです。そしてこの協同の新たな波が、新たな世紀、新たな千年紀において、協同組合員であることに新たな価値を付け加えることでしょう。
 
 私たちアメリカ合衆国の市民は、世界史上でも最も幸運な国民の一つです。国民として、私たちは特権的に生まれてきました。しかし、私たちは知っています。合衆国の数百万の人びと、そして世界中の数十億の人びとが貧困のうちに暮らしているときに、私たちの経済的・社会的目標を達成できないということを。グローバル経済における富の集中のために、十分な食料、水、雨露をしのぐ住居、教育ないしは保健医療なしに暮らす人びとが、世界中に数十億も存在します。私たちは、これらの人びとに背を向けることはできません。協同組合運動に立ちあがった私たちは、適者生存、不寛容、富と権力の集中、そして人種・経済的地位・宗教による人びとの分離といった態度を賞賛するグローバル経済と闘わなければなりません。
 
 新たな千年紀に入ろうとするとき、協同組合の価値が世界中で決定的に求められています。私たちの創設者の伝統に従い、私たちは、他者への配慮によってコミュニティを構築しなければなりません。私たちの組合員および潜在的な組合員にサービスを提供する方法を探求しなければなりません。共に働くことを通じて、新たな協同組合を開発することによって、私たちは協同組合の組合員たることに価値を付け加えることができるでしょう。
 
 人びとが自らの経済的目標を達成し自らの生活を改善することを助けてきた長い歴史の上に、協同組合が信頼を築いてきたことを忘れないようにしましょう。協同組合は世界中の数百万の人びとを主権者に高め、自らの生活をコントロールする力を高めてきたのです。そして私たちは、最初のロッチデール開拓者の人びとから合衆国の電力協同組合の新しい組合員まで、過去155年にわたって、人びとに発言権を与えてきたのです。この部屋にいる私たちのすべては、私たちの協同組合を誇りに思っています。私たちは、協同組合が事業を遂行し生活を改善するための、より良い方法であることを知っています。
 
 私は、毎日働きに行くことを愛しています。私は私の仕事を愛しています。それは、私たちが直面している問題や挑戦課題ないしは機会が何であろうとも、一つの解決策、協同の解決策を持っているからです。これこそ協同組合を偉大にしているものです。そして、これこそ、合衆国中で数百万の新たな人びとが、新しい協同組合を組織し、協同組合の組合員であることに新たな価値を見出している理由です。
 
 それは新たな千年紀にふさわしい仕事です。それは、私が愛する、そしてあなたにも愛してほしい仕事です。協同組合が組合員たることに価値を加えるとき、そして私たちが新たな協同組合を組織するとき、私たちはコミュニティを築き、人びとに力と声(発言権)を与えているのです。そして、より良い世界を築いているのです。