会・総     
 (1999年8月30日〜9月1日、カナダ・ケベック市)
 

 
           翻訳:菅野 正純(協同総合研究所)
 
ICA大会開会式(8月30日)

資料3 カナダ・ステファン・ディオン(Stephane Dion)政府間問題
      担当相(Minister of Intergovernmental Affairs)の挨拶

「協同組合運動はグローバリゼーションに人間の顔を与えることに貢献する」
“The Cooperative Movement Helps Give Globalization a Human Face”

 
 
 カナダ首相Jean Chretien閣下を代表して、私が生まれた町、ここケベックにおいてICAの大会に挨拶できることに、私がどれほど喜んでいるか、皆様にただそのことを知っていただきたいと思います。そして本当にあった物語をさせて下さい。
 
 川を越えたレビの町に、世界で最も成功した協同組合の一つ、デジャルダン運動の本部があることは、皆様ご承知の通りです。いま、北アメリカで最初に開かれている、皆様の32回大会は、レビの最初の人民金庫創設100周年を記念する祝典の開始を告げるものです。私の物語から、こうした催しが同時に開かれていることは、会議の主催者が意図的に一致させたということ以上のものであることを、おわかりいただけると思います。それは歴史の深いめぐり合わせなのです。なぜなら、みなさんの連合組織(ICA)がデジャルダン運動の創設を促したからです。
 
 1892年から1917年まで、アルフォンス・デジャルダンは、オタワで、下院のフランス語速記者として働きました。このことによって、彼はカナダの経済社会状況をきわめて容易に観察し、国会図書館にしばしば通えることとなりました。図書館で彼は、貯蓄と信用に関する多数の本を読むことになります。1897年4月、彼は下院で、モントリオール州選出のMichael Quinn議員の、高利貸しの行動に関する演説を聞きました。それは、彼にとって忘れがたい印象を残した演説でした。アルフォンス・デジャルダンは、ここから次のような確信を導き出します。すなわち、フランス・カナダ人や農民、労働者、小売商人に対して、彼らが当時はびこっていた高利貸しの活動から身を守る経済的テコを提供するためには、信用を利用できるようにしなければならない、と。
 
 Quinn氏の演説を聞いて間もなく、デジャルダンは『人民の銀行(People's Banks)』という本にめぐり合います。著者Henry.W.Wolffは、当時、ICAの会長でした。アルフォンス・デジャルダンは、1898年、ロンドンにいた彼に手紙を書くことを決意し、ウォルフの援助によってベルギー、イタリア、フランス、スイスの貯蓄・信用協同組合の幹部と接触できるようになりました。歴史家のイブ・ロビーは、この時期の研究と討議、欧州との恒常的な連絡が、アルフォンス・デジャルダンが外国の経験をわが国の現実に適合させる上で大きな力になった、と述べています。
 
 こうしてデジャルダン人民金庫は、北アメリカの信用組合と人民金庫の先駆けとなっていったのでした。
 
 歴史の教訓は、次の通りです。すなわち、協同組合運動は、その最初から、国際的な協同が自分たちの本質的な強さであると見ていたことです。そしてみなさんの連合組織は、この協同において決定的な役割を果たした、ということです。
 
 協同組合運動は、地域コミュニティに深く根をおろした、きわめて地域的な現実であると共に、世界のどこにいるかに関わりなく、人間の必要に応える、きわめて国際的な現実でもあります。19世紀と20世紀を通じたこの現象(協同組合運動)の成長は、まさにこれによって説明されます。英国ロッチデールの約20人の小さなグループが1844年に発足させた最初の成功した協同組合――消費者協同組合――が、経済史における最も壮大な運動の一つの始まりとなったのは、このためです。
 
 まさに壮大です。では今日、協同組合運動はどれだけ大きくなっているでしょう。ICAが示すところによれば、それは全ての大陸の93カ国242会員組織を擁する、最大の国際的非政府・非宗教組織です。総組合員7億2500万人を誇る74万9000以上の組織がこれらの組織に加入しています。
 
 カナダでは、およそ1万の協同組合が、1,500万組合員を擁し、15万人以上の人々を雇用しています。協同組合は国中に存在しています。私は最初にケベックの珠玉、デジャルダン運動についてお話しました。しかし私は、ケベック協同組合運動のその他の成功物語について、また、わが国最大の穀物取り扱い協同組合「サスカチェワン小麦プール」について、あるいはアトランタ・カナダのAntigonish運動について、またカナダ北部協同組合が経験しつつある成長について、延々とお話を続けることができます。
 
 カナダ協同組合連合会とカナダ協同組合評議会が、皆様の連合組織(ICA)において果たしている役割を、私たちはたいへん誇りに思っています。ここでも再び、デジャルダン運動理事長、クロード・ベラン氏がICA理事会においてカナダ協同組合運動を全体として代表していることは、まさに歴史のもう一つのめぐり合わせです。
 
 協同組合運動がカナダで、皆様の国で、そしてまさに全世界でこのような成長を享受してきたとすれば、それは協同組合運動がどこでも同じ必要に応えるものだからです。すなわち、社会正義と経済成長を、相互扶助と民主主義という手段によって調和させるという必要に応えることです。19世紀には、グローバリゼーションということはまだ言われていませんでした。けれども、産業革命によって引き起こされた抑制なき資本主義の過剰と失業が、最初の協同組合の創設につながっていきました。最初の協同組合の創設は、結社の自由によって可能になったことを認める必要があります。それは政治的自由主義と共にやってきたものです。
 
 信用や住宅を利用できるようにする、あるいは人びとのコミュニティにおける貯蓄と再投資を支える、あるいはまた主要な品物をより手に入れやすくする――これらのいずれによるにせよ、協同組合はあらゆる形の貧困に対抗し、コミュニティの持続可能な発展に貢献するものです。
 
 協同組合は、正真正銘の民主主義の学校であり、その組合員に対して、次のことを学ぶ機会を提供しています。すなわち、いかに交渉し、指導し、グループの一員として働き、性、人種、宗教ないし年齢にかかわりなく、一人一票の平等な投票権をどう行使するかを学ぶ機会です。
 
 今日、グローバル化、それに伴う経済集中とともに、マンモスのように巨大化した企業が仕掛ける同一部門での競争に、協同組合が立ち向かうことを余儀なくさせています。ここカナダでも、皆様の国でも同様に見られるのは、協同組合がグループを再編し、協同組合運動外のパートナーとの戦略的同盟を打ちたてている姿です。協同組合にとっての挑戦課題は、競争に耐えながら、同時に協同組合の理念を大事にすることです。協同組合はこの挑戦課題に応え、そのことによってグローバル化に人間の顔を与えることに貢献することでしょう。
 
 国連もそうした状況を十分自覚しています。ご承知のように、今年は、さまざまな国が協同組合に有利な法的枠組みを提供するために採用してきた、法的・行政的手段に関する報告が討議されていきます。
 
 協同組合がグローバル化のなかで果たすべき役割について、カナダも自覚しています。1998年3月31日に採択された、カナダの協同組合に関する新法が、協同組合の資本調達により多くの柔軟性を与えると共に、組合員によって遂行される民主的統制を含む協同組合固有の性格を尊重したのも、その理由からです。カナダ中の英語圏と仏語圏の協同組合は、新法が施行されるよう、数年間、手に手をとって活動してきました。
 
 カナダ国際開発機関(Canadian International Development Agency, CIDA)が、世界中の援助計画の多くに協同組合モデルを用いてきたのも、そうした理由からです。CIDAの最も重要なパートナーの一つはデジャルダン運動です。この二つの組織は密接な関係を維持しており、CIDAはいまや「デジャルダン国際運動」の主要な融資パートナーとなるまでになっています。
 
 新しい3ヵ年寄付協定が、デジャルダン国際運動を含む、CIDAの伝統的パートナーとの間に4月に合意されました。その額は1,420万ドルに達します。
 
 結論として、1世紀以上にわたって協同組合運動は、社会的目標を収益性への配慮と均衡させることに成功してきました。われわれのグローバルな社会において、この成功が継続することが、かつてなく重要になっています。コミュニティの精神と社会的包容および民主主義という、協同組合運動が依拠する価値と共に。