会・総     
 (1999年8月30日〜9月1日、カナダ・ケベック市)
 

 
           翻訳:菅野 正純(協同総合研究所)
 
ICA大会開会式(8月30日)
 

資料1
     ロベルト・ロドリゲスICA会長挨拶
     Roberto Rodorigues
 
 ご来賓のカナダおよびケベック政府代表の皆様、カナダ協同組合評議会(CCC)およびカナダ協同組合連合会(CCA)の皆様、同僚のクロード・ベランさんとデジャルダン運動の代表の皆様、ICAの会員の皆様、来賓と傍聴の皆様
 
 この美しい都市ケベックで開かれる、ICA史上32回目のこの大会の場において、今日、すべての皆様の前に立つことが、私にとってどんなに素晴らしい瞬間であるか、皆様にはお分かりいただけることと思います。
 
 ICA104年の歴史上初めて、私たちの大会がアメリカで開催されようとしています。1992年に東京大会が初めて欧州を離れて開かれました。そして今日、一部の欧州人がかつて「新世界」と呼んでいた場所に私たちは集まっています。このことは、協同組合運動の成長を象徴し、また、ICAが真に世界規模の組織に発展していることを象徴するものであると信じます。皆様にお分かりいただきたいのです。ブラジル人として私がこの催しに感じている誇りを。今日ここにこのように多数お集まりいただいた北米、中米、南米の協同組合組織と分かち合う喜びを。
 
 ここカナダで、私たちは本当の意味で協同の国の歓迎を受けようとしています。カナダ協同組合評議会とカナダ協同組合連合会は、使っている言葉は違うかもしれません。しかし、両者は、それが代表するものによって極めて強く結ばれています。すなわち、両者は、強力で、経済的に成功した協同組合運動を代表しており、その協同組合はカナダの人口の40%以上にサービスを提供しているのです。皆様を代表して、この両連合組織と、とりわけビル・ターナー、ジレ・ルパージュ両理事長に、私たちの大会を準備していただいたことを感謝申し上げます。
 
 ここケベックにおいて、われわれは、世界の大規模な協同の成功物語の一つ、デジャルダン運動を直に目にする機会を得ています。他の国のICA代表は、ケベック県では、デジャルダン貯蓄・信用協同組合が民間銀行すべてを合わせたよりも大きいことに、お気づきでないかも知れません。このデジャルダン信用協同組合は、ほとんどすべての地域コミュニティに存在し、資本家所有の銀行が経済的見かえりが不十分であると信ずる町では、しばしば唯一の金融機関となっているのです。カナダを代表してICA理事を送り出しているのはデジャルダンであり、われわれの大会を準備する主要な責任を引き受けて下さったのもデジャルダンでした。事実、私たちが今日ここに集まった本当の理由は、ちょうど川を渡ったレビの町にある、最初の人民金庫の設立百年を祝う式典の始まりを、この大会で記すことです。私たちの大会が開催できたのは、デジャルダンの皆様の多大なご尽力によるものです。ありがとう、クロード・ベラン。
 
 この大会は、世界全体と私たち協同組合運動の双方にとって、きわめて重要な時期に開かれています。
 
 グローバル経済とそれに伴う市場の自由化は、強力な競争圧力を生み出し、効率と専門化、コスト削減、品質、テクノロジー、および生産性のための終わりなき闘いをもたらしています。
 
 すべての部門と世界の全地域の協同組合は、こうした展開から影響を避けがたく受けています。資本形成、借入れ、組合員の忠誠心、組合の再組織、経営の再組織、および人的資源に対する投資――すべてのことが、「第3次世界大戦」の影響下にあるのです。この市場のための戦争は、世界中の協同組合運動に対して根本的な問題を提示しています。
 
 われわれは、ビジョンに富んだ、新しい世代のカリスマ的な指導者を必要としています。協同組合の指導者として選ばれようとする人びとは、自らが達成しようとする明確な政策と綱領を持っていなければなりません。組合員の願いをよく解釈するだけでは、もはや不十分なのです。明日の指導者は、組合員を彼らの未来に向かって導かなければなりません。具体的な綱領に基づいて選出された以上は、それを実行する自由と義務を保持しなければならないのです。
 
 われわれはまた、4年前にマンチェスターで承認された協同組合のアイデンティティに関する声明に基づいた法制を必要としています。まさにこのことから、各国の法制問題により密接に関わる指導者が求められているのです。
 
 世界中で、協同組合と政府の間の合意と提携の成功事例が見られ、これらは大きなインパクトを及ぼし得るでしょう。
 
 これらおよびその他多くの面において、協同組合は変化しつつあります。統合、合併、再構築、コスト削減、合弁企業、戦略的同盟――これらは、協同組合が新たな競争相手に対処する方法です。
 
 ICA自身も変わりつつあります。われわれの「組織見なおし」の結果は、総会に提出されます。理事会は、専務理事から新計画の実行方法に関する提案を受け取りました。理事会は、ICAの会員が当面する多くの挑戦課題に対処することを援助できるようになろうと思えば、ICA自らを刷新しこれらの新戦略を遂行しなければならない、と確信します。
 
 ほとんどすべての協同組合運動において、今日、巨大な変化が生じつつあることを、私たちはみな自覚していると思います。こうした協同組合発展第二の波の中で、気がついてみると、われわれは川の両岸の間を航行していました。一方の岸には市場があって、協同組合が財務的に成功するよう求め、他方の岸には(組合員であるとないとを問わず)人びとの幸福に対する関心があります。こうした未来を洞察するとき、われわれは、経済的なことと社会的なことという、協同組合の永久の二分法を再確認することとなります。これはわれわれの挑戦課題ですが、われわれの強みでもあります。恐怖であると同時に、われわれの不思議なアイデンティティでもあります。
 
 協同組合が直面しているこの過程において、とくに一つの問題が指摘されます。それは成長する必要であり、多くの協同組合は統合と合併によってはじめてこれに対処できることになるでしょう。
 
 集中の問題は、グローバリゼーションの主要かつ必然的な要素です。それらは同じゆりかごから生まれたものです。そして一方は他方の結果です。あらゆる経済部門において、企業は自らを経済的巨人に転換しつつあります。それには限度も国境もありません。銀行からスーパーマーケットまで、保険会社からコンサルタント会社まで、病院から学校まで、メッセージは同じです。集中、集中、集中です。
 
 私見では、これは押しとどめることのできない波です。高波が押し寄せる時、できることはその波に乗って、その頂にとどまることです。協同組合が競争に耐えて生き残るためには、同じ道に従うほか選択の余地はありません。幸いにも多くの協同組合がまさにこのことを行いつつあり、きわめて成功的な結果をえています。
 
 集中が今日の経済モデルの一面であるとすれば、他の一面は排除です。一方でのより多くの集中が、他方でのより多くの排除をもたらしています。高波はその後に常に死を残して行きます。その最悪の結果が失業です。だが、それだけではありません。自分の報酬や生活の質を改善する望みがなければ、人は映画やサッカーの試合に行くことはできません。友だちと楽しい時を過ごすために外出することも、新刊のCDや雑誌を買うこともできないし、子どもを良い学校に送ることもできません。
 
 この種の排除は、社会の混乱を深めます。そのことは、さらにもっと大きな問題につながって行きます。麻薬取引やテロリズム、ゲリラ戦争や犯罪のいずれであろうとも、そうです。
 
 何よりも、排除は民主主義の大敵です。排除は、民主的政府に対して明らかな直接的脅威となりうるのです。失業者の大軍は、私がいま述べた犯罪と暴力のグループにすでに加わりつつあります。それぞれの投資を減らすことで、民主的政府は自らに対する危険を増大させているのです。
 
 排除は集中のシャム双生児です。だが、グローバリゼーションのゆりかごから育った後者とは違って、排除は、政府や社会が対応しなければ、グローバリゼーションの死をもたらしかねません。
 
 協同組合発展の第二の波は、民主主義と、その結果である平和を防衛する、すばらしい機会を協同組合にもたらします。これには多くの理由があります。
 
 第1に、協同組合内部の集中は、排除の結果ではないことです。反対に、巨大な国際市場へのアクセスを追求する過程で、それはすべての人を包容するとともに、地域市場をオープンに保ちます。第2に、協同組合が、他のセクターから排除された人びとのために解決策を提供することです。
 
 世界中で大学を出た若者たちが、雇用を見出そうとして、類似の専門職によってつくられた協同組合に参加する事例が見られます。民営化によって職を失った政府の職員が、サービス協同組合をつくって、かつての雇用者と新しい雇用者の両方のために働いています。
 
 協同組合は包容的(inclusive)組織であり、排除の組織ではありません。もちろん、自らのイメージを守るために、協同組合が悪い組合員や悪いリーダー、悪い役員の除外を余儀なくされることは事実です。だがそれは排除ではなく、籾殻から小麦を選り分けることです。
 
 これらすべてのことから、協同組合は、民主主義を防衛する上で、良い政府にとっての理想的な同盟者となります。
 
 同盟者として、協同組合は特権ではなく他の経済セクターと対等に、また家父長的後見でなく友愛によって、過去の出来事によって引き起こされた偏見によってではなく彼らが将来なし得ることに心を開いて、意見を聴取され、処遇されなければなりません。
 
 このことは、協同組合の新しい役割をもたらすものです。それは、社会的なものと経済的なものを超越するものであり、われわれの最も神聖な柱である民主主義を擁護するという役割です。ICAが子どもたちや孫たちの世界をより良いものにしようとするのは、このような問題関心からです。
 
 すでに私が会員組織の検討に付すために声明を提出しようとしているのも、こうした問題関心からです。この声明は、世界の最も豊かな国々の指導者たち、G8、OECD、および国連の全加盟国に送るものです。それは警告と申し入れから成っています。
 
 警告とは、排除がそれらの国を破壊することについてです。申し入れとは、あらゆる部門の協同組合と、社会的問題関心を持った経済組織が、排除を一掃する闘いにおいて同盟者でありうることについてです。
 
 みなさんの支持を得て、これによって、世界のすべての良質で真剣な政府の行動計画に協同組合をしっかりと速やかに位置づけさせたいと考えています。
 
 結論として、グローバリゼーションや自由化、競争、集中という高波は、止めることのできない現実です。われわれの協同組合としての挑戦課題は、われわれ自身の協同組合発展の「第二の波」を、それ自身高波に成長させるよう保証することです。すなわち、協同組合が150年前の時代に必要(ニーズ)を充たしたように、次の千年紀の必要を充たす、進歩と包容、発展と公正の勢力として自らを高めることです。