『協同の發見』1999.12 No.92 目次

会員レポート・活動紹介

杉本 時哉(協同総研前理事長) 
 

 
■今井千恵(早稲田大学)さんから、『おもしろ男女共生の社会学』(1999.4.10・学文社・2600円+税)をお送り戴いたまま、ついご紹介が遅れていました。森典子(横浜市大)秋山憲治(静岡理大)上松由起子(関東学院女子短大)のお三人を代表編者として、今井さんを含め9人の方が、Part 1 〜5 、12章を分担執筆されています。
 森先生のはしがきによると同名の旧版があったそうで、新版は旧版の蓄積の上に執筆者も半数が交代、今日的な“男女共生”の問題を、経済(カネ)による“生活世界”植民地化、解体と変動の中にある、日本と世界の、経済・労働・社会・文化・政治・行政などの諸領域の広い範囲で、比較考察も含めて跡づけ、さらに、男女の自立と男女間の共同性や共生的関係をどのように形成していくか、を留意したとされています。その意味では非常に判りやすく整理されて、“男女共生”の今日的状況理解に大変役立つ著作となっています。この中で、今井さんは第8章「女・男の働き方、男女共生の働き方」を分担執筆されていますが、その中で労働者協同組合・ワーカーズ・コレクテイブにも触れて「職業労働と社会運動ないしボランテイア活動との性格を部分的に併有した、曖昧な有償労働」の「“脱職業の推奨”という落とし穴」の危険性を指摘、「“新しい働き方”は、その独自の理念を追求しながらも、基本的には、職業として確立すべきであろう」と提言されているのが注目されます。
■『中京商学論叢』(中京大学商学会・第46巻・第1号、1999.10.20)で野原敏雄さんと大谷正夫さんがいずれもフィジーについてのレポートを書かれています。お二人はご一緒にフィジー共和国の視察をされたようです。
 野原さん(中京大名誉教授)は「旧植民地国の開発と協同組合――フィジーのvaka・Viti について――」、大谷さん(日本生協連参与・研究所副理事長)は「フィジーに新しい変化をみる〜新憲法と選挙、新協同組合法〜」の表題でのレポートになっています。
 野原さんはフィジーの辿った歴史、とりわけ英国の植民地統治下で、現地人と、イギリスが労働力として入植させたインド人との調整に当たった、Ratuスクーナ〔元NCL(Native land Commission) の長官代理の業績を紹介、そのフィジー風の暮らし方=vaka・Viti の尊重を巡る評価と、その現在に至る変遷を辿られ、開発における協同組合の役割にも触れて紹介されています。大谷さんは、表題が示す1995年のフィジーの選挙における労働党の勝利を、フィジー独立以後の政治変動を振り返りながら、野原レポートで紹介されたフィジー人とインド人の対立が乗り越えられ、民族共存の憲法に則り極めて民主的に行われた選挙の意義を紹介されています。また、新しい協同組合法を、ILO勧告やICA原則とも比較考察しつつ、フィジー的特徴を摘出し、フィジーにおける協同組合の現状と問題点を紹介し、多人種、多文化の社会システムを発展させていこうとするフィジーに注ぐ、大谷さんの協同組合人としての関心を表明されています。
 このところ、先進諸国の情報を本誌で取り上げることが多かったのですが、国際機関の文書を観ても、同時に発展途上国への目配りの必要を痛感していた私としては、お二人のレポートに大いに啓発されるところがありました。

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