『協同の發見』1999.12 No.92 目次

 
カナダBC州の協同組合
 

 
大谷 正夫(東京都/協同総合研究所)
 
 
 国際高齢者連盟(IFA)の世界大会が去る9月6日よりカナダのモントリオールで開催された。日本労働者協同組合連合会の代表10名が参加したが、帰途立ち寄った、BC州の協同組合の最新の事情を以下に紹介する。

◆人口の過半数が組合員

 カナダ協同組合連合会(Canadian Co-perative Association, CCA)のブリティシュ・コロンビア州支部によれば、BC州には600以上の協同組合が存在しており、その組合員は180万人にも及ぶという。BC州の人口は約330万人であるから、組合員は優に人口の過半数を超えていることになる。組合総数では住宅協同組合が最も多く、330以上もあり、全体の過半数を超えている。組合員数ではクレジット・ユニオンが最も多く、人口の3分の1がその組合員である。
 それでは、セクター別に協同組合を俯瞰してみよう。

1)
住宅協同組合;330組合で13,000所帯が入居している。カナダの住宅協同組合は低所得者対象の住宅である。全国に2,000以上の組合があり、9万世帯が入居している。連邦政府の政策と監督下にあるが、財政削減のなかでこれを州政府に移行することが1996年から行われている。しかし、このことにより、協同組合の存続が危ぶまれるとして、全国住宅協同組合連合会(CHF)では反対運動を展開している。したがって、既存の組合の90%は州に移管されていない。BC州は全国で初めて州議会で移管反対決議を行い、運動の側からは高く評価されている。

2)
クレジット・ユニオン;100の組織で店舗は約330店舗を保持している。ヴァンシティ・クレジット・ユニオンは、カナダ最大の組織である。カナダでは昨年4大銀行が合併して2行となる動きがあったが、寡占化を危惧した政府はまだ許可をしてはいないが、いずれ大合併が進むとみて、クレジット・ユニオンもこれに対し連帯強化の政策が論議されている。クジット・ユニオン全国連合会(CUC)と9州内のそれぞれのクレジット・ユニオンの連合会の機能統一の案もあったが、現在、ヴァンシティを中心に、さしずめBC州内の事業連合が図られようとしている。

3)
生協;32の生協店舗があり、組合員は71,000人である。小規模でコミュニティストア・タイプのものが多い。
 マウンテン・イクィップメント・コープは,登山・スキーを始めあらゆるアウトドアスポーツの専門生協で、100万人以上の組合員を擁している。店舗を、バンクーバー、カルガリー、トロント、オタワ、エドモントンと全国展開をしている。アメリカの同様な生協のREI(アールイーアイ)のカナダ版といってもよい。

4)
農協;酪農協もアイランド・ファームや、隣のアルバータ州にも進出しているアグリフーヅなどがある。果実のマーケッティングでは協同組合のシェアーがカナダで一番高い。花、野菜の栽培(有機)、畜産なども盛んである。

5)
労働者協同組合;1996年にBC州とユーコン準州をカバーする連合会(FWC/BC)が結成され、さらに労協の促進を図るための基金造成がなされている。基金造成の組織も協同組合で(DEVCO)、クレジット・ユニオンも協力している。
  いずれにしても労協はまだ若い組織で、BC州内には26の労協が存在しているのみである。森林関係の労協がケベックと同様に存在する。
 カナダでは約800の労協があるというが、ほとんどがケベック州に集中している(600組合)。全国連合会(CWCF)の結成も1990年のことである。

6)
新しい分野;その他各種協同組合もあるが、新しい分野の協同組合が注目を浴びている。保険/医療協同組合はコミュニティに必要な組織として活躍を始めた。レインボー・コミュニティ・ヘルス・コープやナナイモ・コープなどである。地域住民が組合員となり、病院/診療所のないところでの地域医療の発展に貢献している。カナダの医療制度は国民皆保険制度で診療は無料である。病院の閉鎖などで、無医村化した地域で協同組合方式での医療の再開を連合会や政府も勧めている。

7)
協同組合託児所;働く親たちによって125組合が組織されている。BC州のみならず、カナダ全域で増加しつつあり、450以上の組合がすでにでき全国連合会も結成されている(オンタリオ州)。
 

◆意識調査にみる協同組合像

 連合会は、今年7月に専門会社(Angus Reid)に依頼して、一般の人々の協同組合にたいする意識調査を行った。電話による聞き取りの方法で、600人を対象に地域、年齢、性、教育、収入などによるクラスター分析を行っている。
 その結果は興味深いものがあるので、いくつか紹介してみよう。

1)
知識:
協同組合については少ししか知らない(55%)、しかしクレジット・ユニオンが協同組合であることは、そのうちの69%が知っている。
・よく知っている(17%)
・若い人達ほど知らない(18歳〜34歳の42%は全く知らない)
・大陸部よりバンクーバー島民の方がよく知っている(68%) 
・知っている協同組合の種類は、クレジ ット・ユニオン、生協、ガソリンスタンドの順である。
・生産者協同組合はあまり知られていない。酪農協を知ってる(33%)
・保険協同組合を知っている(21%)。
・労働者協同組合はほとんど知られていない。

2)
利用:
・協同組合を利用したことがある(44%)、しかし協同組合の具体的な名前をあげると、その数は倍加する(80%)。
・若者の3分の2が利用したことがない。
・利用しない理由は、現状に満足(20%)、距離的に不便(19%)、協同組合の存在を知らない(14%)、情報がない(9%)。
・最近利用した組合はクレジット・ユニオン(43%)。

3)
動機:
・価格(69%)、地域経済への支援(69%)、高品質(66%)、便利な場所(65%)、社会的責任(56%)。

4)
社会的位置づけ:
・社会的役割を認める(57%)。しかしそのために利益を上げることに反対(48%)、環境保護(33%)、44%がなんらかのボランティア活動をしている。
 
 調査項目はまだ続くが、ここでの結論として、BC州では協同組合は比較的知られていることである。なんらかのかたちで協同組合を利用した人々を、協同組合によびもどすことが当面の目標となるが、先ずインフォメイション・ギャップを埋める必要がある。その際、クレジット・ユニオンをモデルとして考えることが勧告されている。 

 同社によると, BC州内の公的機関や一般企業に関する州民の別の調査では、クレジット・ユニオンにたいする抜群の好感度が示され(69%)、この数字は銀行より30%も高いそうである。クレジット・ユニオンはサービスがよく、経済的メリットもあるとのことである。人々の協同と、社会的貢献の具体的なこの実例を生かし、協同組合のキャンペーンを積極的に行うべきであると勧告がなされているのである。

◆BC州の新協同組合法が成立

 新しいBC州の協同組合法が本年7月に成立した (Co-operative Association Act)。

 背景として,1998年に連邦法であるカナダ協同組合法(Canada Co-operative Act)
が成立し、各州の協同組合法の見直しが促進されたからである。

 カナダでは、2州以上で事業を行うか、2州以上に事務所をもつ協同組合は連邦法に基づいて活動しなければならないが、それ以外は、基本的に州法によることになる。

 ちなみに、カナダ10州および2準州には、それぞれ州の協同組合法がある(ヌナブット準州のみは、本年4月にノースウェスト準州より分離成立ばかりで、まだない)。

 連合会では、1997年に法改正検討委員会をつくり、法改正への提言(The Case for Modernization)を州政府に行って来たところであった。

 成立した法律からみると, 連合会が提起してきた改正点はほとんど採用されたことになるが, 連邦法の改正点も、同時に州法のなかにとり入れられている。

 新法の大きな特徴点は、a)会社法の適用を明記した条項をなくし、関係項目は協同組合法として、独立して記述をされている。とくに理事のガヴァナンスを強化している。b)ICAの新原則に依拠している。ただし具体的なカナダの原則でもある、コーペラティヴ・ベイシスでは連邦法と同様に、協同組合間協同(第6原則)と地域社会への関与(第7原則)の原則は含まれていない。c)官庁関係の手続きを簡素化した。従来は監督指導官(Superintendent) と登録官(Registrar) の2段階のチェックがあったが、重複をさけ、指導監督官の制度を廃止した。それでは具体的に変更された内容を、いくつかみてみよう。
  
投票メ−ルによる投票が認められた。委任投票は依然禁止されているが、会場より遠くに居住する場合に限り認められる。その距離については定款で決める。
  特別決議(例えば定款の変更など)にもメール投票が認められ、住宅協同組合は投票総数の4分の3、他は3分の2の賛成が必要。

資本組合員出資金は1種類とする。出資証券は額面価格または時価であるが、非営利(non-profit)住宅協同組合 および, 解散時に分配をしない定款条項のある協同組合(Co-ops with non-profit dissolution clauses) は額面価格の出資金のみ認められる。
 投資出資金は基本的に組合員にたいしてのみ発行可能である。定款で認めた場合、非組合員にも発行可能である。しかし上記の2種類の協同組合は発行できない。投資出資金保持者は理事会定数の20%まで選挙され理事となり得る。
 
組合員
住宅協同組合以外にも共同 (Joint) 組合員を認める ( 家族 )。組合員を類別 (Class) に分類可能。 これにより複合協同組合 (Multi-stakeholders co-op) が実質上認められたことになる( 連邦法にはない )。 協同組合設立には3人(以前は5人)、連合会は3組合(25組合)で組織できる。新しい組合員として、政府、地方自治体を認める。組合員資格の終了は2段階を経て行われる。先ず、理事会の4分の3の賛成、そして総会では過半数の賛成で成立する。

会議
BC州以外での組合員会議の開催の許可。通信手段を利用した会議も可。総会開催要求は組合の規模により、組合員の20%から5%の請求により可能。組合員への公告はeメールでも可。

理事
理事の資質について明記された。理事および経営執行幹部(Officer) は18歳から資格がある(以前は19歳)。理事または経営執行幹部と協同組合間に利害関係の争いを招きかねない職種と財産の開示を就任時に行うこと。理事会をBC州以外での開催も可能。電話開催も可。理事会議事録は原則的に非公開とする。

監事
監事の資格を明記した。連合会の有資格者による単協監査を可能にした。監事の任命を、1年限度で延期することが、特別決議を通じて可能である。

その他:
レジストラーへの報告は、総会後ではなく設立日を区切りとして行うことになり、したがって年次決算報告書の提出は不要となった。 異議(Dissent) については詳しい条項が盛り込まれた。 例えば, 合併、投資出資金の非組合員への発行、複合協同組合化、BC州以外への進出などの特別決議で異議をとなえ、議案成立後も反対の意志を変更しない場合は組合員資格を喪失する。その際出資金や投資出資金は返還される。

◆州連合会について

 BC州連合会は2種類の会員をもっている。(A)正会員(Full Member) として、セクター別の州連合会と州内全域をカバーする大単協の12組織、(B)準会員 (Associate Member )として38の単協である。現在この準会員の拡大を訴えている。

 また、協同組合陣営としての統一した政策方針のもとに、新世紀にむけ地域経済の復興と雇用の増進にむけて活動している。

 BC州政府が協同組合に比較的理解を示しているのも、連合会活動の成果である。新協同組合法の成立過程がそれを示している。

 BCの協同組合研究センターが、ヴィクトリア大学のマクファーソン教授のイニシアチヴにより来年から発足する。従来、協同組合研究センターは、サスカチュワン大学で1984年から活動しているのが有名である。また東部ではいくつかの大学で、協同組合教育、訓練、研究がなされている。今回、太平洋側に研究所が設立されるのは初めてであり、今後の活動が期待される。日本などとの共同研究もあながち夢ではあるまい。

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