『協同の發見』1999.11 No.91 目次

ヨーロッパ協同運動の新たな息吹
質 疑 応 答

 
富沢 賢治(東京都/聖学院大学)

富沢
 カッテルさん、サントゥアーリさん、ジョアヒムさん。内容豊かなご報告をありがとうございました。おかげさまで、ヨーロッパの運動の経験から私たちは多くを学ぶことができました。また、励ましも与えられました。
 
 会場から2つの質問が出ていますので、まずそれを紹介します。
 第1の質問は、「協同組合運動は協同組合関連の法律の制定によって飛躍的に発展したのか? 発展の要因はなにか?」というものです。
 第2の質問は、社会的協同組合に関するもので、「ケアを受ける人もケアを提供する人も組合員になるのか? その場合、出資金は同額なのか?」「組合の財政的基盤はなにか?」というものです。
 
 日本では労働者協同組合法が必要とされていますが、このような問題関心から、私はつぎの3つ質問をしたいと思います。
1.ヨーロッパ諸国ではすでに労働者協同組合に関する法律が制定されていますが、法律を制定させた基本的な要因はどのようなものであったのでしょうか。できれば、社会的経済的背景も含めてご説明ください。
2.労働者協同組合法成立のための社会的支援をどう強化していったのでしょうか。ワーカーズコープとワーカーズコレクティブとの連携、既存の協同組合の支援、協同組合以外の非営利組織(NPO)の支援、労働組合の支援、マスコミの支援、公的支援(地方自治体の支援。国家の支援。EUの支援)などに触れて、ご説明ください。
3.日本で労働者協同組合法をつくるうえでの大きな問題点として、労働者協同組合における「労働者」をどう規定するかという問題があります。
 日本の労働法体系のもとでは「労働者」は、使用従属関係にある者、使用者に労務を提供して賃金を支払われる者、端的に言えば「従属労働者」と解釈されています。ところが、労働者協同組合の労働者は、労働者であるとともに組合の共同所有者であり共同運営者でもあるので、従属労働者ではなく、むしろ「協同労働者」(associated worker)という独自のカテゴリーを認める必要があるのではないか、という議論があります。
 その場合、「従属労働者」の保護と権利の保障を目的としている現行の労働法体系のもとで「協同労働者」の保護と権利は法的ににどう保障されるのか、という問題が生じます。すなわち、現行の労働法体系のもとでは、労働者の保護としては、最低賃金保障などの経済的保障や社会保険などの社会的保障があるし、また、労働者の権利としては労働組合結成や労働組合運動の権利があります。EUのなかでもドイツなどでは、新しい労働者規定を設けることは第2の労働市場を生むこととなり、労働者としての保護と権利がなくなり、労働組合が築いてきた労働条件も低下する可能性がある、という批判があります。
 このような問題をどう考えたらよいのでしょうか。
 
 以上、合計すると5つの質問がありますが、時間の関係上、3人の方にすべての質問にお応えいただくのは無理ですので、関心のある問題を選んで、ご意見をいただければ幸いです。
 
 
カッテル
*イギリスの法制度のもとでは、ケアの仕事をする協同組合ではケアを受ける人もケアを提供する人も組合員になることができます。出資金に対する法的規制もありません。このように異なるタイプの組合員がいる協同組合では、法的な問題ではなく、むしろ組織運営のあり方が問題となっています。たとえば、利益の分配に際して、異なるタイプの組合員に対する公正な分配はどのように保障されるか、という問題です。このような問題の解決のためにICOMも検討を開始しています。
*イギリスで労働者協同組合運動を発展させた基本的な要因としては、とりわけ、地域におけるCDA(協同組合振興組織)の活動があげられます。
*労働者協同組合運動は法制度成立以前から活発でした。法律はそのような現実を国家が承認したものとして理解しています。
*イギリスにもワーカーズコープの他にワーカーズコレクティブが存在します。ワーカーズコープの多くでは、運営責任者が選出されるなど、代議員制が採られています。ワーカーズコレクティブの多くは組合員が少人数なので直接民主制を基盤に運営されています。しかし、運動面では両者の協力態勢が採られています。
 
 
サントゥアーリ
*イタリアでも法律の制定によって運動が発展したというよりは、法律は社会運動の発展の結果であると見られます。社会的なニーズの変化に応じて新しい運動が生成発展し、その運動の現実を国家が法的に承認したということです。
*社会的協同組合では身障者などケアを受ける人も組合員となります。出資金は少額です。また、法的に、社会的協同組合は剰余を組合員に配分できることになっています。
*社会的協同組合に対する行政の支援としては、行政の社会的サービス(保育所の運営など)を社会的協同組合に契約で委託することなどが行われています。行政の主要な関心事がコストの削減にあるので、入札にあったっては問題も生じますが、社会的協同組合には低い税率の付加価値税が適用されるので、一般企業よりも有利な点があります。
 
 
ジョアヒム
*労働組合と労働者協同組合との関係は最近は緩和されましたが、ヨーロッパでも労働組合は労働者協同組合に対して無関心あるいは時に敵対的でありました。それはなぜでしょうか。第1に、EUでは中小企業における労働組合運動が弱いのですが、協同組合は中小企業の一種としてみなされているので、主要な労働組合の関心外でありました。第2に、労働者協同組合の労働者は労働組合運動の対象である賃金労働者ではないとする見方がありました。労働者協同組合の労働者は企業家でもあるとみなされたのです。
 現在では、イタリアやスペインに見られるように、労働者協同組合運動と労働組合運動との関係は改善されつつあります。主な要因は、経済危機の深化と失業問題の深刻化です。失業問題の深刻化に伴って、労働組合も労働者協同組合に関心を寄せるようになっています。
 フランスでは、労働時間短縮関連の法律が企業内における労働組合代表の存在を必要条件としています。この条件は協同組合にも適用されるので、現在、この法律に関しても労働組合と協同組合との対話が始まっています。
 また、労働者協同組合が地方自治体の高齢者サービスや児童サービスを請け負う場合も、労働組合と話し合うことが必要とされています。
 いずれにせよ、労働組合と協同組合との関係改善のための第一歩は、共通の問題で協同することだと思います。中央政府や地方自治体に対する共同のロビー活動も重要です。
 
 
カッテル
*イギリスでは労働者協同組合に対する労働組合の実質的な支援はあまり見られません。労働者協同組合は、立ち上がりの時期などに、低賃金や長労働時間があったりするので、自己搾取の組織だという批判がありました。しかし、最低賃金制が成立してからは、労働組合との摩擦も少なくなっています。
*労働者協同組合における労働者の法的規定の問題は重要です。イギリスでは、労働者協同組合の労働者は、労働者協同組合という組織(法人)に雇用され賃金を受け取っている労働者(つまり賃金労働者)とみなされ、一般の賃金労働者と同様な法的保護と権利が保障されています。 
 
サントゥアーリ
*イタリアの社会的協同組合では、ケアを受ける人もケアを提供する人も同額の出資金を支払います。ボランティアも同額の出資金を出します。ボランティアは公的保険制度の適用を受けています。この点は、NPOのボランティアと異なっています。社会的協同組合の場合は、ボランティアの出資金も組織運営のための資本として活用できるので、NPOよりも有利です。
 アメリカの民間非営利組織では寄付に大きく依存するNPOや財団が大きな位置を占めていますが、ヨーロッパの民間非営利組織は組合員に依拠する協同組合的性格をより強くもっています。
*民間非営利組織は国ごとに異なった性格をもっていますが、同時に、組合員や地域住民のために活動するという共通の性格をもっています。社会的目的のために活動するという点では共通しているのです。

11月号目次へ『協同の發見』目次