『協同の發見』1999.11 No.91 目次

<巻頭言>

まずもって運動を充実させましょう。
法制度は自ら造られていきます。

宮坂富之助(早稲田大学)


 労協法国際フォーラムにおける海外の報告は、それぞれ共通して、ヨーロッパ各国における現代の経済的、社会的、そして政治的矛盾の中で、ヨーロッパの人びとが自ら社会的なニーズを満たすために協同している大きなエネルギーを感じさせるものでした。

 カッテルさんは「公正な社会の創造」をめざして協同組合の果たす役割を強調されましたし、サントゥアーリさんは、同じように社会的企業の経験を通してボランティアの組合員との協力関係、あるいは社会的協同組合法の特徴をとらえて、イタリアの新しい法制度の中での組合運動の特徴を述べられました。私は、サントゥアーリさんのお話の中で、「いかにして組合の財政的基盤を形成するかが重要である」と強調されたのが大変印象的でした。また、ジョアヒムさんは、いわば連合会の機能面での役割を挙げられました。協同組合のそれぞれの役割を全体を通してうまくネットワークを結んでつくり上げながら、それぞれの役割を強化していくというお話だったと思います。

 いろいろな社会的経済組織が、さまざまな形で胎動している。それを大きな運動として連合会が結びつける役割を果たしている。その連合会の役割を非常に幅広くネットワーク化しているし、大学もそれに積極的に協力している――私は、これらのことを大変印象強く思いました。 

 「イギリスにおける労働者協同組合運動のめざましい発展」というビデオ上映がなされましたが、その映像を見ながらの感想も含めて、私のまとめ的な印象を申し上げたいと思います。

 富沢さんからの質問に答えて、三人の報告者のお答えがございました。大変興味深いものでした。これはシンポジウムの大きな課題になりますが、既存の労働組合運動との関係で、新しい協同組合との関係――つまり、労働者権あるいは労働者の利益を組織的にこれまでは組合を通して守ってきました。それが弱められるのか、それとも強められるのか、というドイツでの議論が紹介されました。これが今後も大きな議論の一つになると思います。このことは、みなさんもぜひお考えいただきたい課題です。

 大内先生が冒頭の開会挨拶で、「従属性からの自己解放」ということを言われました。私自身も、「労働者協同組合法案」をつくるときにいちばん悩んだのはそこでした。要するに、私たちは「従属労働」という関係からいかに自己を解放するかというところに「協同労働」という言葉、あるいは考え方、そしてその組織化の論理を求めているわけですが、しかし、伝統的に百年もの間続いてきた、そして労働者自らが築いてきた組織と権利との関係をいまどのように考えたらよいのか、という問題があると思います。 

 少し長くなりましたので、申し上げたいことを二点にしぼり、述べておきたいと思います。ビデオの映像を見ておりまして、ふと印象強く思ったことがございます。映像に出てきた方々の言葉の中に、「いかにして新しいビジネスを見いだすか。これを協同組合の運動の中で再生していく。自らの事業としてつくり出す」――こういうふうな意味合いで語られていたと思います。こういう取り組みは、今は一般の企業でもやっていることです。私たち新しい労働者協同組合がそういう発想で新しいニーズを発見していくときには、何が必要なのでしょうか。つまり、一般の企業との違いは何かといった時に、いかなる目的でどのようなサービスを提供するかということにあるのではないでしょうか。その時に、そのニーズを必要としている人たちをも含んで、働き甲斐のある協同した労働でその目的を達成するというのが、私たちと一般の企業との違いである、と考えたいと思います。

 もう一つ、これは大問題ですが、運動と法制度の関係です。これはシンポジウムの大きなテーマですが、私自身も法律家として重要な問題と考えます。運動があって法律があるのか、法律があって運動があるのか――運動と法律の関係です。長い長い法律制度の歴史の中で、どちらかというと日本は、基本的な法律をつくり、それから市民の権利とか市民の社会的な役割といった形で、これまで進んできました。しかし、ヨーロッパの国々のいろいろな法律制度と市民の権利との関係は、「まず運動ありき」なのです。市民の社会における「活動ありき」なのです。それが法制度の基礎をつくってきているのです。もちろん、日本でもそういう関係を語る歴史もないわけではありませんが、現代では、そのような社会的基盤、意識が強くなってきています。

 したがって、私の申し上げたいことは、「まず運動からはじめましょう」ということです。そして、それが法制度の基礎をつくり上げていく。これに尽きると思います。私のきわめて印象深いことを申し上げました。

※この原稿は、宮坂先生の第1日目におけるコーディネーターとしてのまとめを当日のテープからおこしたものです。(編集部)

11月号目次へ『協同の發見』目次