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海外報告
ヨーロッパにおける就労創出と社会的経済
フィリップ・ジョアヒム
(ベルギー/ヨーロッパ労働者協同組合連合会)
CECOPは、社会的労働者協同組合(Social Workers Co-operative)のヨーロッパ連合であり、イギリスのICOMやイタリアの多くの社会的協同組合が含まれます。EUの各国に会員がいますし、とくにこの2年間では、EU諸国以外にも中央ヨーロッパと東ヨーロッパからの会員が増えています。
まずはじめにCECOPのグローバルな役割を紹介し、次に私たちの政策の中身について話します。このことは、皆さんにとって非常に関心のある問題だと考えます。昨日の準備会で、日本の労働者協同組合と私たちCECOPは多く点で同じ目的を共有していることがわかったからです。そして最後に、私たちの21世紀へ向けての目標を紹介いたしますが、これもまた皆さんの関心のあるところだと思います。スペインやフランスでは「協同労働」(associated work)といわれていますが、イギリスではもっとよい表現の「労働者共同所有」(workers ownership)という言葉を使う概念――これを社会的に認知させることです。
1.CECOPの概要
CECOPは、労働者協同組合(workers co-operative)、社会的協同組合(social co-operative)、労働者自主管理企業(participative enterprise)のヨーロッパ連盟です。
CECOPは現在ブリュッセルに本部を置いており、そこが私のオフィスです。ベルギー人は私だけですが、イタリア、ドイツ、イギリス、アイルランド、フィンランドなどヨーロッパのさまざまな国から集まった12人のメンバーが働いています。この私たちのチームもまた協同組合という形式をとっています。ですから、私たちも協同組合という企業のオーナーであり、私は副代表という立場です。ヨーロッパでは、このような企業はしごく一般的なものです。
CECOPの会員は、ヨーロッパの国々の全国規模の連合組織(national federation)で、33団体が加盟しています。EUの15カ国だけでなく、2年前からは中央ヨーロッパと東ヨーロッパの国々も参加するようになりました。現在CECOPは、41カ国に及ぶ170万人の労働者と7万企業を代表する組織です。図1は、それらの企業が従事する分野を示したものですが、対企業サービス38%、工業および手工業33%、建築および公共事業14%、対人サービス14%となっており、教育・文化の領域からも参入しています。
図2は、イタリアにおける社会的協同組合の成長を示したものです。これはイタリアの例で、数年後には社会的協同組合は4500にまで達すると思われますが、このような増加の傾向はヨーロッパ全体でも同じようにみられます。
2.CECOPの役割と活動
CECOPの役割の第一番目は、加入するすべての国の連合組織を代表してロビー活動をし、継続的にヨーロッパ委員会と折衝して、将来的によい結果を引き出すことです。つまり、私たちがめざすいろいろな形態の社会的企業を現実のものとしていくのが目標です。
二番目は、CECOPの会員組織の発展と促進をはかることです。会員と連絡を取り合い、模範的な例があればそれを共有します。スウェーデンやフィンランドなどは協同組合がいちばん伸びているところですが、ここではどんどん新しい協同組合が生まれています。いろいろな会員と連絡を取り合って、協同組合のコンセプトを促進しようというものです。
三番目は、拡大に関わる諸問題について、会員組織に情報提供をすることです。ヨーロッパの地域のいろいろなプログラムがありますが、それをジャーナルにして提供しています。新しいチャンスが出てくるとか、ヨーロッパの助成金を得るなどの機会がある場合には、そのような情報の提供をします。
四番目は、パートナーシップです。ヨーロッパにおけるすべての国の「社会的経済」に属する協同組合組織との連携をはかることが大事ですので、私たちのソフトウェアですばらしいパートナーシップをつくり上げていきたいと思います。そのためには、ネットワーク化が必要です。国レベルでは、自治体と協同組合のネットワーク化という問題もあります。将来的にはもっとこれを強化していきたいと考えています。また、異なる領域の組織とのパートナーシップを進めることによって、新しいネットワークをつくっていきたいと思っています。
異なるネットワークでもっとも重要なのがREVESネットワーク(The European Network of Regions and Cities for the Social Economy「ヨーロッパ都市・広域社会的経済ネットワーク」)です。15のヨーロッパの都市、地方および広域(州)自治体、そして12の社会的経済組織が会員になっています。このように、地方自治体と一緒になって、質の高い民主主義の実現、市民の参画、雇用創出などの努力をしています。このREVESネットワークは2年前につくられました。
EMESネットワークは、大学との提携を追求するもので、研究者との結びつきを強めて協同組合セクターの発展を促進していくために大変重要です。継続的にネットワークを実現させ、異なる協同組合に関する学習会を行っています。協同組合組織の比較をしたり、新しい法案づくりのために働きかけたり、ロビー活動を行ったりします。
また技術的な援助という側面から、CECOP R&Dと呼ばれるグループが創設されました。異なるヨーロッパのプロジェクトを研究し、資料を発行したりなどの活動を行っています。
EU諸国は、世界の中でもっとも豊かな国々です。 しかし、この2年間を見てみますと、経済成長はあるものの、新しい仕事をつくり出すという点では、EU諸国間でうまく連携がとれていません。1400万人の人びとが失業状態にあり、 とくに若い人に職がないという現状です。そして、4000万人以上の人びとが貧困レベルのさらに下のレベルで生活をしています。男女の比率で考えてみますと、貧富の差はさらに大きくなってきています。
雇用創出のオルタナティブとして、社会的経済の発展を促進し、実現することが大事です。新しい社会的経済には、モデルづくりが必要だと考えます。有効なシステムをつくり出すことによって、目に見えるわかりやすい価値を生み出す必要があるでしょう。発展モデルとなるためには、政治的・経済的・財政的な意味で「第三セクター」を組織し、法的・財政的・社会的および文化的な枠組みを確立しなければなりません。
CECOPは、職業訓練や教育、ネットワークづくりに投資しています。また、地域開発や女性起業家の育成と平等な機会というところに着目し、新しい部門の開発に注目しています。
そのためには、コミュニケーションを最大限にはかることが大切です。プログラムや政策の中でコミュニケーションを確立し、ヨーロッパの法的な枠組みづくり、さらには法律の改定につなげる必要があります。そして、どんな人でもこのようなコミュニティのサービスが受けられるようにしていくことが大事です。
教育や職業訓練でとくに私たちが重要視しているのは、若者の教育と経営能力の開発です。また、地域開発においては、新しい企業の創設です。これは地域のレベルで実現可能なもので、地方自治体とのパートナーシップを組むことが必要です。女性の起業家精神の開発では、とくに平等の機会というところに着目しています。平等の原理をすべてに実施していきたいと、CECOPの政治プログラムとして打ち出しています。このようなことを推進することによって、少なくとも持続可能な成長が実現可能になります。 経済社会がバランスのとれた形で開発・成長することに注目しています。
さらなる挑戦課題としては、どのような形で持続可能な環境の発展ができるのかということと、同時にすべての人びとが適切な生活の質を享受する権利をどのようにして尊重していくかということです。そのためには、資源の有効利用が大切です。環境に配慮し、バランスのとれた発展に貢献する多様な経済的・社会的担い手を、CECOPは支援していきます。1992年にリオ・デ・ジャネイロで確認された「持続可能な発展」は、環境のバランスだけでなく、社会のバランスをも求めているのです。
3.協同労働(asssociated work)
ここでは、「協同労働」(associated work)について話を進めたいと思います。
ヨーロッパ各国には協同組織に働く労働者に対するさまざまな法制度があり、CECOPでは2年間をかけて調査を行いました。その調査の中で、CECOPのさまざまな協同組織に働く労働者が「協同労働」(associated work)に対してどのように考えているかを調べました。この新しいコンセプト「協同労働」には、どのような定義が与えられるのでしょうか。
「協同労働」とは、事業体の中の労働者が協同して職業活動を行うことであり、働く場において連帯し、また法律によって労働者にほとんどの運営権が与えられるべきであるというもので、雇用されて従属的な形で働くのではない、いわゆる「集団的自己雇用」(collective self-employment)というようなものです。生産に携わる者によって組織され、自己管理し、ICAの協同組合原則に基づくものであるとされます。
社会的企業は、法律的な三つの形態が考えられます。 一つ目は、スペインのようなアソシエーション契約(association contract)と労働契約(working contract)の中間的な形態です。二つ目は、フランスやイギリスのようなアソシエーション契約と労働契約を並列する形態です。三つ目はもっとも興味深いケースで、イタリアのアソシエーション契約と労働契約のどちらかを自ら選べる選択型の形態です。
一つ目の形態は、協同組合人であると同時にサラリーマンであるという二面性を有しています。スペインではいま、労働者は社会保障システムを自分で選べるようになりました。協同組合法では給与は配当でなければなりませんが、法律で定められた最低賃金制が適用されます。一般の労働形態ににより近い新しい事業体も生まれました。1986年に登場した株式会社形式のもの、そして1997年の有限会社形式のものです。
二つ目の形態は並列型です。イギリスでは、労働者協同組合は歴史的に一般法を適用してきました。一般法のほうが規則がゆるやかで複雑ではないというのが理由の一つです。もう一つの理由は、労働者協同組合は消費者協同組合に依存してきたという状況があったからです。一方フランスでは、19世紀末まではスペインと同じような形をとっていましたが、20世紀に入って法改正が行われ、協同労働者が一般の労働者と同じように保護されるために、一般法が適用されることになりました。労働組合とはあまりよい関係ではありませんでしたが、労働時間が35時間に短縮され、今日では労働組合との対話が始まっています。
三つ目の形態はイタリアですが、イタリアでは今日新しい法案が出てきています。協同組合組織を協同労働の労働者、賃金労働者、そして独立して働く労働者の三つに分けて認めるというものです。この法案は柔軟性があり、経済的に困難にあるときの自営者も救済できるようになっています。
「柔軟性」という言葉は、伝統的な労働組合にとってあまりよい響きがありません。使用者が自由に給与を削減でき、労働者を解雇できるという内容が含まれるからです。しかし、協同組合では、柔軟性という言葉をもっと積極的な意味で用います。柔軟性によって協同組合人は民主的な意思決定を維持していきたいですし、同時に労働組合との対話によって同じようなレベルの法的保護、社会保障を獲得していきたいと思っているからです。そして、加盟各国において同じレベルの結果を引き出すためのロビー活動をしていくことが、CECOPの今後の活動の一つだと考えています。
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