『協同の發見』2002.3No.117
『協同の發見』目次
巻頭言
「雇用効率性」を考える
―雇用創出率と雇用喪失率の増減から―


堀越芳昭(山梨学院大学)

 戦後最悪の完全失業率、それに倍する実質失業率、「雇用」をめぐる状況は深刻になってきており、生存権(憲法25条)と勤労権(憲法27条)が脅かされている。「規模の経済」による「経済効率性」を追求する経済システムは、雇用問題においてもいまや破綻をきたしてきている。大規模企業ほど新たに雇用を生み出す雇用創出率は低く、雇用を失う雇用喪失率が高い。そして中小企業ほど雇用創出率が高く、雇用喪失率が低いという事実はそれを如実にあらわしている。いま求められるのは「経済効率性」ではなく「雇用効率性」である。

 この点で注目される2つの調査がある。第1に、通産省関東通商産業局調査であるが、「通商産業省が実施した平成9年第4 回企業活動基本調査の集計結果によると、管内企業の常時従業者数は減少傾向にあり、特に資本金規模の大きい企業における減少が顕著となった。」とし、1991−1996年の分析から、雇用を増大している「雇用吸収型企業」を検出し、その特徴として@大企業ではなく中小・中堅企業であること、A内部資源(財務力・技術力・人材力)を蓄積し、何らかの特色ある技術や技能・ノウハウを有していること、B高い内部留保、高い収益性、高い成長性を維持していること、C人材の一層の活用を志向しそれが雇用増大につながっていること等、が結論付けられており興味深い。(通産省関東通商産業局「管内企業の常時従業者数の推移について−雇用吸収型企業の成長促進要因−」1999年5月)。

 第2に、日本政策投資銀行調査部の調査であるが、1978−99年の20年間の分析から、@規模が小さい企業ほど雇用創出率が高い、A雇用喪失率は80年代は小企業ほど高かったが、それ以降90年代後半には5000人以上の大企業で最も高くなった、B社齢の若い企業ほど雇用創出率が高く、雇用喪失率が低い、C負債比率が低いなど経営財務が健全な企業ほど雇用創出率が高い、といった事実を検出し、「企業の雇用創出には、事業規模の拡大のほか、企業財務が健全なこと、比較的小規模であること、社齢が若いこと、従業員の平均年齢が若いこと、などの要因が影響している。従って、雇用創出率を回復させるためには、社齢の若い成長力のある企業の育成や、規制緩和などを通じた独創的なアイディアの事業化促進、あるいは新規開業率の上昇を促すための環境整備などが重要であろう。」と提言している。(田中賢治「企業の雇用創出と雇用喪失―企業データに基づく実証分析―」日本政策投資銀行『調査』第6号、2000年3月)。

 以上2つの調査は90年代のものである。ここではその後の、完全失業率5%を超えた2001年12ヶ月間の直近の動向をみてみよう(図表参照)。


 これは総務省『労働力調査』(各月)により作成した、従業員規模別企業の前年同月比の雇用者数増減である。それによれば、総数は5月以降急落し、9月以降マイナスに転ずるが、その主因は500人以上の大規模企業にあることが歴然としている。くわしくみると、総数で5月以降増加数が低下し、9月以降50〜70万人ものマイナスをきたしている。小規模企業(1〜29人)は5月と10〜12月にマイナスとなり、中小企業・中規模企業(30〜499人)は9・10月に10万人ほどのマイナスとなるが、それ以外の1〜8月は各月数十万人、11〜12月においても10〜20万人の雇用を増加させている。他方大規模企業(500人以上)は、1月(40万人)と5〜12月(各月5〜54万人)に数十万人の雇用を喪失している。このように500人以上の大企業における雇用喪失が顕著であり、中小企業・中規模企業が健闘しているという姿が浮かび上がってくる。この時期の雇用問題を深刻化させた原因はもっぱら大企業にあるのである。

 今日求められる「雇用効率性」とは、「雇用創出」と「雇用維持」を促進することであり、雇用創出率を高め雇用喪失率を低下させることである。そうであるならば、大企業中心ではなく、中小企業とりわけ雇用創出企業の役割を高めていくことが求められる。労働者協同組合はその先頭にたっているといえよう。

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