『協同の發見』2000.9 No.100 総目次

 モンドラゴン協同組合 基本原則(Basic Principles)


1 自由な加入(OPEN ADMISSION)
 モンドラゴン協同組合の経験は、その基本原則を受け入れ、われわれが創造しうる仕事を行う上での職業能力を証明することができる、すべての男女に開かれている。それゆえ、宗教や政治、倫理、性を理由とするいかなる種類の差別も、そこには存在しない。
 (加入)制限を設けることができるのは、協同組合の実際的必要と事業上の要請による場合、および試用期間後に書かれた報告書を考慮した場合だけである。 

2 民主的組織(DEMOCRATIC ORGANIZATION
 (モンドラゴン協同組合は)労働者・組合員の基本的平等に基礎をおく。その意味は、次の要件にもとづいて民主的に組織された企業だけを認めるということである。
  • 総会が最高機関であること。総会は、全組合員によって構成され、「一人一票」に基づいて運営される。
  • 理事会(Governing Council管理委員会)をはじめとする管理機関(governing bodies)が民主的に選挙されること。理事会は、総会に対し、協同組合の経営(management)について責任を負う。
  • 組合員総体を代表して企業を経営するために任命される経営組織(anagement bodies)と協働すること。
 日常的には、広範な権限が委譲される。それゆえ、理事会の選出と理事会を通じた執行経営陣(executive management)の任命が重要である。理事会は4年ごと、理事の半数は2年ごとに更新される。経営執行陣には、企業の経営執行と戦略が大幅に委任される。だが、最終的な意思決定とコントロールの権限が総会にあることを、常に銘記しておかなければならない。

3 労働主権(SOVEREIGNTY OF LABOUR)
  MCC協同組合においては、労働が自然と社会、および人間自身を変革していく主要な要素である、と理解されている。その結果、協同組合企業組織において、労働は完全な主権を与えられ、創造された富が提供された労働に従って分配されるとともに、新たな仕事の創造が一貫して追求される。
 協同組合が生み出した富については、組合員に対して、その出資金に対する持分によってではなく、その労働に応じて分配される。
 MCC協同組合の給与政策は、連帯の原則から基本精神を導き出し、連帯にもとづく十分な労働報酬にそれを具体化する。
 われわれの協同組合における給与(Payment)は、二つの基本的要素によって構成される。いわゆる前払い(advance Payment)と、協同組合的配当(dividents)である。
  • 毎月支払われる前払いには、固定部分と変動部分が含まれる。固定部分は、各職場の機構に直接関係し、変動部分は各組合員の職務上の実績と結びついている。
  • 協同組合的配当は、協同組合がその年に得た成果(配当)ないし損失(負の配当)に対する各組合員の持分である。正味可処分利益の最高70%、最低30%が、協同組合の財務状況に応じて、配当として分配される。年間配当額は、各組合員の個人出資(contribution)に加えられる。 
4 資本の道具的・従属的性格(INSTRUMENAL AND SUBORDINATE NATURE OF CAPITAL)
 モンドラゴン協同組合の経験から、資本は、事業の発展にとって必要な、労働に従属する道具と見なされる。それゆえ、資本の蓄積に関わる努力に応じて、正当な報酬を支払う価値があるものと理解される。但し、その報酬は、生み出された利潤の総額に直接結びつくものではない。
 一般に、協同組合の出資金に対する組合員の出資は、二つの部分から成る年率の利子を生じさせる。最高を7.5%とする基本的な年間利子率と、「インフレ調整利子率」である。インフレ調整利子率は、前年の消費者物価指数の増加に対して年率にして70%までを組み込むことができる。どんな場合にも、この両者の額が法で定められた限度を超えることはできない。ちなみに現在定められている限度は11%である。
 いずれにしても、組合員の出資金への出資に対する報酬は、協同組合が十分な利潤を生み出し、利用できる十分な準備金を有することを条件とする。

5 参加的経営(PARTICIPATORY MANAGEMENT)
 本原則は、自主経営と、その結果としての、事業経営への組合員の参加を、一歩一歩発展させようとするものである。そのためには、次のことが求められる。
  • 参加の適切な機構と回路を発展させること
  • 協同組合の基本的な経営数値の実績に関する透明な情報
  • 労働者=組合員と組合代表者に影響を及ぼす、協同組合の経済的決定や、組織と労働に関わる決定において、両者が参加する協議・交渉手段を活用すること
  • 社会的・職業的研修計画の系統的実施
  • より大きな職務上の責任を伴う人材を補充するための基本的な手段として、内部昇進制を確立すること。
 最初の、かつ主要な参加機関は、〈総会〉であって、協同組合の完全な主権はここに存する。その最大の権限には、次のものが含まれる。すなわち、秘密投票による理事会構成員と監査役の任命と解任(revoking)、企業経営の検討、年次決算および剰余分配・損失割り当ての承認、協同組合の全体方針と戦略の承認、出資金の増加と出資に対して支払う利子率および新組合員の加入金の承認、協同組合の定款の修正、協同組合の経済的・組織的・機能的構造の重要な変更に伴うすべての事項の承認、である。
 総会で全組合員によって選出される〈理事会〉は、協同組合を代表・経営・管理する組織である。理事会は、最高12名の理事から構成され、うち半数は二年ごとに更新される。任期は4年間続き、再選可能である。
 理事会の活動は、総会が定めた方針と戦略に従属する。理事会の責任のうちでも、次の点がとくに重要である。すなわち、それぞれのサブグループの事務局長(Director General)の要求による協同組合の専務理事(Managing Director)の任命と解任、組合員の加入脱退、労働・規律体系および制裁の適用に関わる決定、協同組合の組織と運営にとって重要な変更、総会に対する年次決算承認および利潤分配・損失割当の提案、ならびに定款の解釈に関して生じうるあらゆる疑問の解決である。
 最後に、〈社会評議会〉(Social Council)は、総体としての組合員を代表して、協同組合の内部権力に対する勧告・協議機関として活動する。社会評議会の構成員は、活動地域と協同組合の組合員数に応じて選出される。その基本的な機能は、勧告と情報、交渉、社会的コントロールである。
 社会評議会の中心的な責任は、管理機関が採用すべき決定に関する提案と報告を起草すること、受け取った情報を代表者に伝えること、管理・経営機関に対して組合員の立場から発議を行うことである。 

6 報酬の連帯(PAYMENT SOLIDALITY)
 モンドラゴン協同組合の経験から、連帯にもとづく十分な報酬が経営の基本原則であることは明らかである。連帯は、内部と外部の双方において、さらには協同組合複合体(Corporation)のレベルにおいてつらぬかれる。
 a 内部的には、連帯にもとづく報酬枠組みの創造を通じて。長年の間、最も格付けの低い労働者・組合員と協同組合の最高執行責任者の報酬格差は、3対1だった。
 近年、モンドラゴン協同組合複合体(Mondragon Corporacion Co−operative MCC)の規模と組織の複雑化に伴って、経営労働の困難さが増したことから、報酬の最高水準が上昇するに至った。現実の市場価格に近づけるとともに、連帯の原則を遵守する立場から、その30%を控除した額を最高水準とするものである。
 b 外部的には、協同組合の組合員が受け取る報酬と、同一部門・地域の賃金労働者が受け取る報酬が同等であるよう保証することを通じて。ただし、後者が明らかに不十分な場合は、この限りではない。
 c MCC複合体レベルでは、報酬と労働時間の双方に関する、連帯にもとづく労働枠組みの手段を通じて。協同組合間の格差を避けるために、賃金水準は、複合体基準の90%から110%の間でなければならない。同様に、年間労働時間は、複合体の労働カレンダーの97%から103%の間でなければならない。 

7 協同組合間協同(INTERCOOPERATION)
 協同組合間協同組合を連帯の原則の特殊な適用、および事業効率の要件として理解し、さまざまな領域でそれをつらぬく。
 a 単位協同組合間では、MCC機構内部の部門別サブグループの創造を通じて。こうした機関によって、規模の経済と組織的な相乗作用が、事業の領域で前進してきた。他方、社会的な領域では、利潤を一歩一歩プールすることを含めて、均質な社会・労働システムの創造が促進された。労働者=組合員の再配置と昇進も可能となった。
 協同組合間協同は、歴史的に、モンドラゴン協同組合の経験の一貫した特徴であった。この点は、新しい協同組合の促進や、財務・教育・研究の分野での支援機関の創造、社会および事業の分野での共同プロジェクトの実施において顕著である。
 b モンドラゴン協同組合の経験と他のバスクおよびスペインの協同組合組織との間では、共同の活動の実施や、社会的経済の組織と事業への積極的参加によって。
 c ヨーロッパ、およびそれ以外の世界の協同組合運動とは、合意の達成や、開発促進を目的とする共同組織の設置によって。ここで、わが複合体が協同組合の普及に対して行ってきた多大な努力について、言及しておくべきである。この努力は、われわれが出席を求められた国際的なフォーラム・討議への参加や、われわれの財力が許す限りでの協同組合づくりへの助言などを通じて行われた。 

8 社会変革(SOCIAL TRANSFORMATION)
 モンドラゴン協同組合の経験は、自らが活動する環境の中での、経済的・社会的発展に対してその主体的関与を向けている。その手段は、次のようである。
 a 獲得した正味利益の大部分を再投資すること。その相当な部分は、新しい仕事の創造を促進する「協同組合間協同中央基金」(Central interco−operative Fund)などのコミュニティ的性格の基金に振り向けられる。
 b コミュニティ開発の取り組みへの支援。「社会プロジェクト基金」(Social Projects Fund)を通じた、教育分野への支援はとくに重要であり、この基金には、協同組合の正味剰余の10%までが振り向けられる。
 c 連帯と責任に基礎をおく協同組合システムと密接に結びついた、社会保障政策の実施。この取り組みは、われわれの社会福祉機関「ラグン・アロ」の活動を通じて行われる。ラグン・アロは、提供される手当てへの貯蓄を促進し、払い込まれる拠出金と支給されるサービスの質の間の適正なバランスを追求することを目標として運営される。
 d その他の経済的・社会的性格の組織との協同 

9 普遍性(UNIVERSALITY)
 普遍的使命の表現としての、モンドラゴン協同組合の経験は、社会的経済の領域で経済民主主義のために働くすべての人びととの連帯を宣言し、国際協同組合運動に固有の、平和、正義および発展という目的を支持する。
 この普遍性は、組織的な分野につらぬかれ、CICOPA(労働者協同組合・職人協同組合の国際委員会)やEUROCOOP(ヨーロッパ消費者組織)、CEPES(社会的経済のためのスペイン事業連合)ないしはバスク協同組合総連合などの、最も代表的な社会的経済のフォーラムに、MCCは積極的に参加する。
 同様に、われわれの事業および協同組合研修センターであるOTAROLAを通じてわれわれは、協同組合文化を試み、普及する。その基礎は、過去40年以上を通じて発展してきた、われわれ自身の社会的経済の経験である。 

10 教育(EDUCATION)
 教育と研修は、モンドラゴン協同組合運動の創造と発展に決定的な役割を果たしてきた。その創設者であり主要な推進力であったホセ・マリア・アリスメンディアリエタ司祭は、常に明言していた。「教育を、一人の人間が採り入れた理念と概念の総体として理解するならば、それこそが人民の発達と進歩の鍵である」と。
 このような理念を力説しつつ、アリスメンディアリエタ神父は、好んで次のように繰り返した。「新しい人間的で正義にかなった社会秩序の推進にとって、教育は、必然的で不可欠な礎石」であり「権力を民主化するためには、知識を社会化しなければならない」と。
 それゆえ、こうした発想にもとづいて、彼がモンドラゴンに来たとき、最初にしたことは、1943年の技術学校の創設であった(今日のモンドラゴン技術学校)。この学校は、この間、われわれの協同組合の経営者と熟練労働者の主要な源泉であり続けてきた。
 協同組合と職務の双方の分野の教育と現任研修は、一貫してわれわれの協同組合の経験の発展と強化にとっての決定的要因である。

翻訳 菅野正純(協同総研)

「海外ワーカーズコープ情報」『協同の発見』2000年9月号(No.100)目次

協同総合研究所(http://JICR.ORG)