『協同の發見』2000.9 No.100 総目次
特集:レイドロー報告と21世紀の協同組合 

21世紀の協同組合と「レイドロウ報告」

角瀬保雄(東京都/法政大学)

 私が協同組合について研究を始めたのは1990年代に入ってからで、1980年のICAモスクワ大会で「レイドロウ報告」が発表された当時の日本における状況はまったく知らない。そこで当時のことを知っている人に聞いてみると、日本での受け止め方は冷ややかなものであったという。そこでは協同組合の第一の危機として「信頼性の危機」、第二の危機として「経営の危機」、第三の危機として「思想的な危機」が強調されていたのであるが、当時の日本の協同組合を取り巻く状況を振り返ってみると、さもありなんとも思える。当時欧米では低成長経済の下での失業とインフレに苦しんでいたのに対し、日本経済は好調を持続し、協同組合もまだ右肩上がりの成長を続けていたからである。
 その後、日本経済もバブル崩壊、90年代長期不況の泥沼に陥り、今日営利企業と同じく協同組合陣営も構造的な危機に陥っている。「レイドロウ報告」でいわれた三つの危機が一挙に押し寄せてきたといえる。欧米では時間差をおいて発生したものが日本では三つ同時に発生したのであるから事態はより深刻といえる。だが、そうした「過去の危機」の重層的な体験にとどまらず、「新たな危機」が近づいているのが今日の状況である。すなわち、20世紀社会から21世紀社会への移行の時期に当たって社会構造全体が大きな転換を迫られているが、それは当然、協同組合にも大きな影響をもたらすものである。グローバル化時代の規制緩和、メガコンペティション、IT革命等の影響である。しかるに、協同組合陣営はようやくその影響の深刻さに気づき始めたばかりといったところで、どう対応したらよいかはまだ暗中模索というところである。
 「レイドロウ報告」は確かに20年後の「西暦2000年の協同組合」について的確な予見を打ち出しており、今日なお学ばれるべき価値をもっているものといえる。しかし、21世紀の協同組合の行方についてはそれのみに頼ることはできないであろう。社会は急速に変化している。熱い思いだけでなく、今日以降の世界経済と社会の変化のクールな分析が必要となる。そして協同組合は自らの変革へのポテンシャルを有しているか否かを問い直してみる必要がある。そして今日から20年後の「西暦2020年の協同組合」の課題が示される必要がある。こうした作業なしには、21世紀の協同組合の展望を打ち立てることはできないであろう。100号を迎える『協同の発見』はそのためのフォーラムとならなくてはならないのである。

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