『協同の發見』2000.2.3 No.94 総目次

労協法制定のためのヒアリング
 
自交総連大分地連
 

 
事業所の名称 新三隈タクシー(有)
事業所の所在地 日田市清岸寺町93-8
電  話/FAXTEL 0973-24-2808 FAX 0973-23-5644
代  表  者 後藤 兵進
設 立 年 月 日 1973年2月10日
法 人 形 態 有限会社
組 合 員 数 27名
事  業  高 12,811万円
資  本  金420万円
  
事業所の名称 大分自交サービス産業(有)〔セキタクシー〕
事業所の所在地 北海部郡佐賀関町大字志生木3890-6
電  話/FAXTEL 097-575-4119 FAX 097-575-3130
E-mail/URLsekitaxi@lime.ocn.ne.jp
代  表  者 高野  修
設 立 年 月 日 1945年1月(1987年4月1日、自主経営移行)
法 人 形 態 有限会社
組 合 員 数 12名
事  業  高 4,560万円
資  本  金 370万円
所     属  日本労働者協同組合連合会
  
事業所の名称 宇佐参宮タクシー(有)
事業所の所在地 豊後高田市大字高田994-1
電  話/FAXTEL 0978-22-2781 FAX 0978-24-2897
代  表  者 高野  修
設 立 年 月 日 1983年12月15日
法 人 形 態 有限会社
組 合 員 数 19名
事  業  高 6,410万円
資  本  金 350万円

 大分でタクシーの自主経営企業を営む自交総連大分地連の高野修さんに、報告をして頂きます。
 
セキタクシー(大分自交サービス産業有限会社)の開業は、1984年12月です。争議の和解条件で開業するようになりました。今では台数で全国で一番大きなタクシー会社になっている第一交通との約10年に及ぶ争議を経て、その和解解決の条件として、残った9名が第一交通を退職して、新たにタクシー免許を得て、仕事をはじめました。場所は佐賀関町です。
しかし、9名の中で佐賀関に住んでいる者はいませんでした。見ず知らずの地域でゼロからの出発でした。
私は9名の一員ではありません。地連の幹部として闘争を援助・指導しました。今はセキタクシーの代表(取締役)も引き受けています。
 
私どものセキタクシーのバックボーンとなっているのは、自交総連大分地連で、現在ここが指導し、当該職場の仲間たちなどと一緒に経営をしている自主経営会社は、他に二つあります。
25年前1974年に開業した日田市にある新三隈タクシーが、自主経営としては最初で、これが長男坊にあたります。次男坊がこのセキタクシーです。その後12年前、1987年にもう一つの自主経営企業――三男坊ですが、豊後高田市にある宇佐参宮タクシーがこの仲間に入ります。これは経営者の経営放棄によって我々が引継いだものです。ここだけが新規免許ではありません。
新三隈タクシーだけの10年は、当該職場あるいは日田地域だけの問題だったのですが、セキタクシー、宇佐参宮タクシーと広がる中で、自交総連大分地連全体でこれらの経営や運営管理の対策を立てるようになってきました。その必要が生まれたということです。自主経営対策委員会を設置して、ここで各社を指導することになりました。
私は、現在自交総連大分地連の書記長と自主経営対策委員会の代表幹事を兼ねて3社を指導する立場にあります。またセキと宇佐参宮の代表も兼ねています。
「自主経営闘争」の原則や基本方針は、地連の大会(自主経営委員会総会)で決めます。その基本方針に沿って、私と各社の業務責任者(専務)とで構成する業務責任者会議をほぼ毎月定期に開催しています。
各社は毎年5月頃にそれぞれ定期総会をもって事業計画と予算を立てます。その計画遂行のために、2カ月に1回各社の経営委員会をそれぞれで行います。経営委員会には自交総連大分地連や単組代表も参加します。しかし日常的な運営問題は、職場の労働組合役員と業務責任者で行う業務会議で処理されています。
 
開業からの推移を簡単に説明します。
労働組合員9名でしたから新規免許を取得した時は小型車5台しか認められませんでした。現在はジャンボタクシー4台を含めて9台を保有しています。
「セキタクシー」というのは、看板名で正式名称は「大分自交サービス産業有限会社」といいます。将来構想として3社の統一を考えており、将来の思いを先取りした名称を付けています。
和解に先立ち当時の地連役員で会社を設立した時は、出資金総額が100万円でした。争議和解の段階で9名の組合員が1人当たり30万円(計270万円)の増資をしたので、開業時の出資金は総額370万円でした。
設立当初の370万円の資本金には変化がありません。その頃に様々な問題があり、地連内でいろいろな議論があり、現在は自交総連大分地連の組織所有という構造の有限会社になっています。
運営は、労働者協同組合としてやろうとしているのですが、出資の方法が少し違っているのです。出資金は、そこで働いている人(個人個人)が直接会社にするのではなく、全員労働組合に入っているので、その労働組合を通じて行い、労組が組織所有しているという構造です。
議論とは、出資金の個人所有か組織所有かという問題に関連したことでした。当時全国で、いくつか経験があるのですが、景気が上り坂の時点での話ですが、退職した人が自分の持株分の権利を、外部の「悪質経営者」に売るということがあったのです。京都のHタクシーや大分のAタクシーで発生した事件では、株の所有権をめぐって裁判になりましたが、結局買い取った外部の経営者に乗っ取られてしまいました。
簡単に乗っ取られてしまうのでは、「『闘争の宝』を残せない」というので、それを防ぐために労働組合の所有という構造をとることになったわけです。ですから3社ともに地連、単組、職場労組の各段階の組合所有です。
セキの現在の営業科目はタクシー業と損害保険の代理店業です。タクシーと損保あわせて、年収6,000万円というのが一番良かった時ですが、現在は4,600万円にまで落ち込んでいます。この10年間の実績は事業報告の中の12ページ、営収推移一覧表で明らかです。
 今まで経験した中で抱えている問題点をいくつか提示しておきたいと思います。
 一つは有限会社、株式会社では売られる心配があるということです。もし労働者協同組合法があれば、解散時に残った財産がある場合は他の協同組合に寄付することになりますから問題が起こりません。そういった義務づけが良いのではないかと思います。当時私たちの論議の中では、欠損金が出た時の話題は出ないで、財産が残った時どうするのかという問題が関心事でした。これもおかしいのですが、残った財産が最後の人に行ってしまうのは不公平だというのです。ちぐはぐですが、儲けとか損とかそんな議論が出てくるんです。労協法で原則が規定されれば、それが出てこなくなるのではないかと思います。
社会保険の適用にも問題があります。現状では代表者が社会保険に入れません。「社長」は労働者ではないというのです。しかし実態は労働者なのです。労働者を「雇われた者」という規定では困るのです。防衛的にいろいろな方策を考えないといけないというのが今の実態です。
自主経営に参加する意識の問題もあります。私たちは、普通の会社に就職するのではなく、自主経営に参加してくる、協同組合に加入してくるという意識が必要だといっているのですが、会社に雇われて加入する人はみんな、そういう意識にはなれないというのが現実です。会社に入る条件として出資金を出すという意識なのです。例えばセキタクシーで働くのに、必要だといわれて出資金を出すという意識なのです。(私たちの場合は、正確には労働組合に出資相当の金額を預けるということですが)これは協同組合だからといった意識からではない。運営に参加するというのも同じです。ここのところが難しい。会社に就職するという感じ方を、教育によって変えるというのは、大変なことです。年をとった人を教育するのは本当に大変です。これは後で述べる問題につながります。
 財政的問題では、労協法によって資金の「貸付け」や「優遇策」があると随分大きな力になると思います。個人の連帯保証(担保物件)がないと金融機関はお金を貸してくれない。結局、財産のある人が連帯保証するしかない。家や土地が必要だということです。通常代表者がすることになるのですが、これでは代表者になれる人が限られてしまいます。
 保証にしろ他の責任問題にしろ、「私はしません、できません」という人が出てくることがある。「自分たちは雇われ者ではないのだから、やる時はみんなでやろう」みんなで責任をとろう、といっても、自分でやるのではなく、人にやってもらおうという傾向が出てくることになる。責任の分担ではなく押し付けあいが起こる。そういうことが問題になってくる。
本来大切にされなければならない原理原則の問題が、法律がないことで空洞化していくという感じです。原則を掲げることは大切なことですが、労働者協同組合法がないために、既存の法制の枠内で何とかやっていこうとする。そうしていると、労働者協同組合で大切にすべき価値が空洞化していくという具合です。何としても、現在の運営方法が素直に労協の価値で貫けるような法律をお願いしたいと思います。
また小さい会社の特有さというか、問題点ですが、営業収入が下がると、間接人件費が相対的に増加します。こうなるとみんなで一生懸命頑張っているのですが、展望が持てずに意欲を殺がれる。それを運動論で、地域とタクシーの役割とかケアワークドライバーとかで何とか奮い立たせているのですが、なかなか大変です。
退職時に発生する問題では、組合が組合員から預かった「出資充当預かり金」を返還しなければならないのですが、組合は全額を会社に出しているので、そのお金がない。セキタクシー自身が労組経由で個人の「出資充当預かり金」の全額を返還することになります。出資総額は開業当初から370万円で、これは減らしていません。減資の手続は大変で、できません。370万円の内訳は、大分地区自交が10万円、自交総連大分地連が180万円で、この二つは完全に組織が出したお金で組織所有ですから問題ありません。
問題は残りの180万円で従業員が出している部分です。セキタクシ−分会が従業員から借りて出している形です。現在開業当時の組合員は2人ですから、計60万円しか残っていません。残り120万円は「資本金」とは言えない実態になっています。資本金と借入金が混同しており、運転資金が次第に減っているのです。使えるはずのお金が使えなくなるということです。現在出資金の実態をきちんとするよう検討しています。
 約5,000万円の借入について、金利は比較的低いところから借りるようにしています。大体3.5〜7%ぐらいまでです。自交総連大分地連が一番の貸手です。次に国民金融公庫です。
 セキタクシーの開業当初の9名は定年などで、現在正式に残っているのは2名です。賃金は大分の他の地域に比べると低いのですが、佐賀関町では他のタクシー会社と比べて差はないと思います。
佐賀関の現状でいえば、従来の顧客がいなくなる。新たな顧客は生まれないというところで、仕事おこしが必要になっています。そのために町役場と提携してやる事業をいくつか提案していますが、まだ実現していません。高齢者向けのバス運行や給食用パンの配送などです。貨物運送業は、荷主さえいれば免許は問題になりません。自由化されているので簡単です。
顧客は地元が基本です。ほとんど決まっています。お客さんの中には、業務上では仕方なく別のタクシー会社を使うが、自分で頼む時はやさしい方が良いので、セキタクシーを利用してくれる人もいます。運転手と利用客は当然顔見知りです。九州全域の観光も行っているので、ぜひ九州へ来られた折りは利用して頂きたいと思います。
 
 ケアワークドライバーの効き目はこれからだと思います。
 日田市で「自交総連2級ヘルパー養成講座」をやりました。47名全員がちゃんと卒業しました。その内の運転手10人でケアタクシーをはじめたところ、マスコミで大きく取り上げられましたが、今のところ利用客はありません。実は田舎のタクシーというのは、ケアに近いことを以前からやってきている。そうしたサービスが仕事の一部、サービスの一部でした。ケアタクシーということで、これまでのサービスをお金に勘定してお客さんから頂くということに、運転手の側にも戸惑いがある。躊躇がある。「お金までとってやるのか」といった意識があるのは事実で、これが大々的な宣伝をためらっている原因かもしれません。専門的なヘルパーさん等からは歓迎されていますが、これからの大きな問題だと思っております。

2.3月号目次協同総合研究所(http://jicr.org)