一般社団法人生活困窮者自立支援全国ネットワークは、第6回生活困窮者自立支援全国研究交流大会を11月3、4日に東北福祉大学で開催しました。協同総研からは2名が参加。ここに参加報告を掲載します。

2015年に施行され、昨年6月に改正法が成立した生活困窮者自立支援法は、法に「人の尊厳という理念」、定義に「社会的孤立」が盛り込まれました。全国的に自立相談支援事業の取り組みは前進している中で、制度と制度の狭間を生んでいることはないか、生活困難にある方々と繋がっているのかを問い直し、「人に寄り添い、伴奏する」生活困窮者支援の原点に立ち返る時期として、本大会は開催され、昨年に続いて千人以上が参加しました。

主催の全国ネットワークは、官民共同で生活困窮者自立支援制度を推し進め、多様な分野、領域の人々、支援者、当事者たちと繋がるプラットフォームの役割をもつことから、大会全体を通じて、個別支援にのみに問題解決をゆだねるのではなく、関係を構築しながらの伴走と、生きやすい地域づくりへの視点が強調されていました。

1日目は生活困窮者自立支援全国ネット代表理事で中央大学教授の宮本太郎さんの開会あいさつではじまり、各分野の第一人者からの提言がありました。NPO法人自殺対策支援センターライフリンクの清水康之さんが「自死予防」をテーマに、制定にも関わった自殺対策基本法以降進められている、地域における包括的な支援の取り組みを報告。社会福祉法人ゆうゆうの大原裕介さんは「共生のまち創り」をテーマに、北海道当別町で取り組んでいる困難を抱えた人たちの存在の見える化と、そのために自分たちの価値を言語化し、魅力を発信する必要性について。NPO法人BONDプロジェクトの橘ジュンさんは「女性による女性支援」をテーマに、深夜にまちにいる若年女性への声かけや個別対応について、何かあったときに相談できる存在がいること、支援の連携体制が今後の課題と。長崎県地域生活定着支援センターの伊豆丸剛史さんは「刑余者支援」をテーマに、犯罪を繰り返す障害者や高齢者への立ち直り支援について報告しました。

提言を受けて行われたシンポジウムでは、進行役を宮本太郎さんに、提言を行った方々に加え厚労省の吉田昌司さん、全国ネットの奥田知志さんが「生活困窮者自立支援制度で誰かに支援は届いているか」をテーマにそれぞれの実践から議論を深めました。困窮者支援に留まらず、福祉全体に狭間のない支援を広げていくことと、支援する側が疲弊しないように分野を超えて連携することの重要性が言及されました。

2日目は、10の分科会に分かれ、労協連は「困難にある人が『ともに働く』地域づくり~地域共生社会を展望して」を企画。コーディネーターに田嶋専務、東京三多摩山梨事業本部の扶蘇事務局長、パネラーとして東北事業本部の三船洋人さん、連合会加盟団体の創造集団440Hzの長井岳さんと山本菜々子さんが登壇しました。「困難にある人と一緒に働くことで、その人の成長が見られる。支援だけではなく、一緒に働かないとその人のことは分からない」と、「共に働く」ことから「共に生きる」社会とはどういう社会かを考えました。

私が参加した分科会「続々・地域力『社会的孤立を生まない、住民の主体的な地域づくり』」は、東北福祉大学教授の高橋誠一さんをコーディネーターに、住民自治組織や地域支援拠点といった地域づくりの実践報告から、社会的に孤立させない、社会参加に向けた取り組みが、生活困窮者支援に繋がっていることを考えました。釧路社会的企業創造協議会の櫛部武俊さんは、「支援者だけで支えていくのは無理がある。地域で支えていくための仕組みをつくっていくこと」と強調。厚労省の國信綾希さんは、「ボトムアップで制度を作ったとしてもお金がつくことですぐに硬直がはじまる。硬直していないかを常に振り返ることが大切」と述べました。

大会全体のまとめは様々な会場を中継でつなぎ、昨晩飲み会に行かずに作成したというPPTを使って全国ネットの宮本さんが、生困自立支援制度と並んで地域共生社会の実現の重要性が高まる背景と今後の論点について。最後に奥田さんが、「本当の意味での包括、共生社会は、生活保護や医療を一体化しないと解決しない」と今後の議題を残して締めくくりました。

協同総研で取り組んでいる厚労省からの受託事業「被保護者の就労支援時のアセスメントツール開発」に引き寄せて考えると、個人の意欲を引き出すこととは、「断らない相談」にも表される、介護・障害・子育て・困窮といった分野や縦割りを超えた体制づくりと、地域づくりに密接に関わっており、ここを意識した調査検討が必要だと感じました。(協同総研:荒井絵理菜)